つまらないと思うのも仕方ない『旅のラゴス』読書感想
こんにちは、活字中毒の元ライター、asanosatonokoです。
今回ご紹介する本はこちら
旅のラゴス 筒井康隆 新潮文庫
こちらの作品、単行本の出版はなんと1986年。
それでもいまだに、『旅のラゴス』はTwitterで感想をよく見かけますし、#名刺がわりの小説10選 に名を連ねていることも多いです。
我が家にあるのは文庫本バージョンですが、文庫本の出版開始が1994年、それから20年後の2014年には21回の増版を重ねています。
すごい数ですよね、21回って!
私がこの本を買ったのは2015年で、帯には「いま、売れています!!」と煽り文句が入っています。
いま、というより、「ずっと売れている本」が正確な表現でしょう。
長年にわたり、多くの人の支持を集めている作品ですが、検索をかけてみると、意外なことがわかります。
検索 | 旅のラゴス |
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あらすじや名言を調べたがる人が多いのは理解できるとして、なんと2番目に「つまらない」というワードがあがってきます。
それだけ、「つまらない」と一緒に検索されているわけです。
売れてもいるし、支持している人も多いのに???
これはどういうことでしょう?
かくいう私も、最初に読んだ時、「旅のラゴス、いまいちだったな…」と思った一人です^^;
実はこの小説、エンタメ作品としては型破りなところがあるんです。
『旅のラゴス』はタイトル通り、主人公のラゴスが旅をして、いろいろな風俗の土地、人に巡り合う連作短編集です。
ラゴスの旅は波乱万丈で、殺人事件に遭遇したり、危うく盗賊に殺されかけたり、奴隷になることも2回……
これだけ命の危険にあいながらも、彼は旅を止めません。
ラゴスの旅は悪いことばかりではなく、鉱山の頭領になったり、王様になったり、文明都市の長老に選出されたり、普通の小説だったら、そこが主人公のゴールになっておかしくない身分や名誉にも恵まれます。
しかし! まるで執着しません。
友人や慕う人々が止めても、ましてや恋人や妻子が止めたとしても、ラゴスは頑固に旅を続けてしまうのです。
おいおい、主人公、もったいなくない? と何回も突っ込みたくなります。
そして、そんなに旅にこだわるくせに、ラゴスの旅の目的というものが、最初から最後まではっきりしません。
本の半ばに「先祖たちの残した知の遺産を知りたい」という目的がうっすらでてきますが、それすら最終目的ではなく、ラゴスにとっては経過地点でしかないのです。
連作短編集ならではの、どこかで話が繋がっていたり伏線が回収される快感もありません。
全体を緩く繋いでいるものは、あくまで「旅」のみです。
物語の基本構造は対立である、と言われます。
物語全体を通して、主人公は敵に立ち向かい、成長しながら敵を克服していく過程が面白いものなのです。
それぞれの短編の中で敵っぽいものはでてきますが、物語全体を貫く、敵のような存在はありません。
ゆえに、ラゴスは年を取ることで老成はしますが、劇的な成長もしません。
これは普通の小説ではあり得ないことです。
普通のエンタメ小説を読むつもりでいた人が、「つまらない」と感じるのはごもっともなんです。
このように、普通の小説とは言えない『旅のラゴス』なので、この本を読むタイミングが大切なのかもしれません。
少なくとも、たまには読書しよう、と思って手に取る本としてはふさわしくないと思います。
「売れている」という帯に釣られて買った当時の私にも、それは言えます。
売れている本が、自分にとって面白い本とは限らないわけです。
本には合う、合わないがあります。
一度合わないと思っても、数年経ってみると面白くなっていることもあるのが読書の不思議なところなので、(最近だと『悼む人』がそうでした、あれも10年前はいまいちでした…)今「旅のラゴス つまらない」と検索してみた人は、数年、寝かしておいてみるのもいいかもしれません。
しかし、それを言っちゃおしまいだ、という気もするので、どうにか、今、つまらないと思っている時点で、『旅のラゴス』を面白く感じさせる工夫はないものかと考えてみました。
そして思いつきました。
それは、ラゴス = 神 だと思ってみよう、というものです。
なんだったら旅をつかさどる神ということにしてしまいましょう。
だって旅好きだもの。
ギリシャ神話にでてくるような喜怒哀楽を持ち、しっかり恋愛もする人間くさい神様が主人公、という感覚で読んでみてはどうでしょう?
そうやってみると、人間離れしたところのあるラゴスの言動が、多少理解しやすくなります。
彼は下界に降り立った異分子であり、王だの頭領だのあがめられて当然であるし、その身分に頓着しないのも当然です。
だって神だもの。
妻子が止めようが、彼の旅は止められません。
だって神だもの。
深い知識で人間界を少し良くしては去っていく旅の神、それがラゴスです。
しかし、この ラゴス = 神 という思い付き、あながち間違ってはいないのではないか、と思います。
『旅のラゴス』で作者が描きたかったものは「旅」ですが、それはラゴスの人生の旅のことでもあり、2回目に読んだ今は人類の旅も表現したかったのではないかと考えています。
ラゴスの生きる世界は文明度は低く、物語の最後にやっと、産業革命の兆しが見える状態です。
これから、世界はゆっくりと、しかし確実に発展していくことが読み取れます。
科学が発達した私たちには、人類の発展の歩みがこれからだとわかっていますよね。
この文明の歩みもまた、旅とたとえることができると思います。
そして、ラゴスだけが、先人の高度な文明を理解し、人類に恩恵を与えられる存在であるわけです。
うん、実に神っぽい。
いかがでしたでしょうか?
『旅のラゴス』は「つまらない」の他にも「解説」といった言葉とも検索をされています。
多くの人が戸惑いと共に読書を終えたことが伺えます。
私がここに書いたことも、本書の一つの解釈です。
もしかしたら、読んだ人の数だけ、解釈が生まれる懐の深い作品なのかもしれませんね。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。
よろしければ、感想など、コメントに残していってくださいね。