読めば幸せ、ひだまりのような1冊『カムカムエヴリバディの平川唯一』読書感想
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今回ご紹介する本はこちら↓
「カムカムエヴリバディ」の平川唯一 平川冽 PHP
2021年11月から始まったNHK朝の連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」に
登場する「カムカム英語」、これは実際にあったラジオ番組です。
今でもNHKラジオ英語会話は続いていますが、
放送開始は戦前にまでさかのぼります。
太平洋戦争時は中止され、戦後まもなく再開されますが
その時に大人気となったのが「カムカム英語」で親しまれた
平川唯一さんによるラジオ英語会話だったそうです。
「カムカムエヴリバディ」の人気に後押しされるように、
「カムカム英語」も「実際どんなラジオ番組だったのか?」
興味を抱かれる方も多いと思います。
そんな「カムカムエヴリバディ」ファンの期待に応えるばかりか、
「カムカムエヴリバディ」を見たことがない人でも
手に取ってみて良かったと思える1冊です。
読むと元気になれる、心を明るく照らしてくれるような本でした。
それでは、中身と感想をご紹介していきましょう。
目次 1.どんなことが書かれている本なのか
2.平川唯一さんってどんな人?
3.本書から受け取れるもの
灯火のようなあたたかい気持ち
自己啓発本なみの前向きな姿勢
1.どんなことが書かれている本なのか
本が出版されたのは2021年のこと、この時既に本書の主役である
平川唯一さんは亡くなられています。
なのでご本人の手で書かれた文章は一文も登場しません。
文章の書き手はご子息である冽(きよし)さん。
唯一さんの生まれてから死ぬまでの人生の主だった出来事が
ご子息の手で丁寧に書かれた伝記のような本になっています。
私なんかは自分の父の伝記を書けと言われたら正直
「超困る、無理」と即さじを投げる自信がありますが、
唯一さんは非常に家族を大事にし、また家族からも愛された方のようで、
冽さんは幼いころから聞かされていたのであろう、
唯一さんの思い出話を非常によく覚えておられます。
本書には「この時、唯一はこう思ったそうです」と
冽さんが実際に唯一さん本人から聞いたエピソードも多数紹介されています。
数々のエピソードだけで、唯一さんが多くの物を冽さんに遺したとわかります。
一人の人間の親として、それがどれだけすごいことか……
読んでいて尊敬の念を覚えるほどでした。
しかし、本書を読んでいると、生前の唯一さんはとても多忙で、
またそれを苦にしない活動的な方だったようで
あまり家族との時間が豊富にあった人生とは思えません。
それでも、限られた時間を充実したものにできるよう、
誠意をもって家族に接していたことが
冽さんの父への尊敬と愛情のこもった文章から良く伝わってきました。
本書全体に唯一さんと冽さん親子の幸せが詰まっているようで、
幸せのおすそ分けをしてもらっている気分でした。
読むとひだまりにいるような気分になれる本、
ただそれだけでも読む価値があります。
2.平川唯一さんってどんな人?
冒頭にも書いた通り、唯一さんは戦後まもなく、
NHKラジオ英会話の講師を務められた方で、
そのラジオ英会話は「カムカム英語」の愛称で親しまれ、
爆発的な人気を誇っていたそうです。
唯一さん自身も「カムカム先生」と呼ばれ、
届いたファンレターの総数はなんと50万通!
今の時代からは信じられないですよね?
人気のあるYoutuberでもそれだけのコメント数を集めるには
ものすごく苦労しそうです。
そんな現代風にいえば「神」レベルで愛されていた唯一さん、
一体どんな人生を送り、どんな性格の方だったんでしょう?
前述した通り、本書は唯一さんの伝記なので、
本の始めは唯一さんがまだ少年だったころ、
山奥の農村で母と兄と3人で細々と暮らしていた頃から書かれています。
意外や意外、少年時代はものすごく苦労人で、
学校に通うのも一苦労、一家の貴重な働き手として
学業よりも農業! という生活だったようです。
そこからどう運命が変わっていったのか、
そのきっかけは唯一さんの父にありました。
唯一さんが生まれた村で一緒に暮らしていたのは母と兄だけで
父は別の場所で働き仕送りをするという、いわゆる出稼ぎをしていました。
その父の出稼ぎ先が「アメリカ」だったのです。
これも今の感覚だと「なんでそうなるの?」ですが
当時のアメリカでは日本人移民が重宝されていたそうです。
そして唯一さん16歳。
まだ大人になりきらないこの年齢で兄と共に父を追い求めて
アメリカの地へ渡ることを決意します。
留学目的ではないんですよ、それは現代の感覚です。
いつまでたっても日本に帰ってこない父を迎えに行ったというのが
実情だったようです。
『母を訪ねて3千里』の父バージョン、
しかし迎えに行ってすぐに母の待つ日本へ帰国したわけではありません。
ここから唯一少年の運命は波乱に富みながらも、
後年に待っている「カムカム先生」になるべき道を歩み始めます。
当時の本人は目の前の課題を夢中にこなしていっただけだと思うのですが、
運命って必然なのかも……と思えるくらい、
「カムカム先生」として活躍するために役立つキャリアを積んでいくことになります。
アメリカに渡ってからの唯一さんの人生は
下手な小説よりも面白い起伏に富んだ物語のようでした。
さすがは後のファンレター50万通の人気者、
タダものではない感じがひしひしと伝わってきました。
詳しくはネタバレになるので書きません、面白いのでぜひ読んでみてください。
3.本書から受け取れるもの
灯火のようなあたたかい気持ち
本書にはご子息の冽さんが、実父である唯一さんへの愛情と尊敬が
込められていて、それだけでも暖かいきもちにさせられる本です。
そして本書から浮かび上がる唯一さんの人柄も
前方を明るく照らす灯火のような心強さや温かみを感じさせてくれます。
なんというのでしょう、誠実、思いやり、真面目、
その他さまざまな人間の性格の長所を表す言葉がよく似合うお方です。
宮沢賢治の『雨にも負けず』を地で行くような人ですね。
こういう人がかつて日本にいたとわかるだけでも希望を感じますし
「こんな人になりたい」というお手本にできる人柄です。
自己啓発本なみの前向きな姿勢
お手本となるのは人柄だけではありません。
その人生における前向きな姿勢もお手本にしたくなります。
若くしてアメリカに渡った唯一さん、その苦労は並大抵ではありません。
言葉もわからない、しかし勉強しようにも働かなければ生きてもいけない。
そんな環境に身を置いても、唯一さんは腐らず諦めず、
そんな生活から抜け出すためには何が必要か、考え、それを実行します。
いろんな自己啓発本に書いてあることを、一人で考え実践していったんです。
・小さいところに具体的な目標を作って成功体験を積み重ねていくのが大事
・時には思い切った決断も大事(仕事を辞めて学びをとるとか)
・どんなに成功しても努力を止めてはならない
などなど……
これらのことを唯一さんは繰り返す人生だったようです。
自己啓発本って、読んだ直後はいいんですよ、
やる気に満ち溢れ、書いてあることを実行しよう! と意気込むわけです。
しかしそのやる気はいつしか消え失せ、
書いてあることのうち定着するのは1つあればいい方……
そんなことないですか?
そこまで意志が弱いのは私くらいかもしれませんが、
誰にも何にも教えられもしないのに、自己啓発本に書かれているような
前向きな人生を歩む秘訣を唯一さんはストイックに継続していた、
このことに「人間にそんなこと可能だったのか」と
良い意味でショックを受けました。
まだまだ人間には可能性があるようです、
それを知れただけでも頑張ろうという気になれました。
いかがでしたでしょうか?
本書から私がもらったポジティブな感情が少しでも
伝わっていればいいなと思います。
読み終えて司馬遼太郎の『坂の上の雲』という小説を思い出しました。
あれも日本が国際社会の中で上昇するしかなかった時代を書いた作品でした。
唯一さんの人生も、どこまでも上へ向かって伸びていくようで、
それはもちろん、勝手にそうなったわけではなく、
唯一さんのストイックさや努力によるものなんですが、
唯一さんが「カムカム先生」として人気を得たのも、
戦争直後、日本が上昇していく時代に、唯一さんの人柄がマッチしたからかな、
なんてことを思いました。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。
よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。