大人にも、子どもにも、心に栄養をもらえる良書『窓ぎわのトットちゃん』読書感想

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今回ご紹介する本はこちら

窓ぎわのトットちゃん  黒柳徹子  講談社文庫

本書のタイトルだけは知っているという方も多いのではないでしょうか? 皆さんご存知、黒柳徹子さんのベストセラーにしてロングセラーです。日本のみならず世界中に翻訳版が出版され、日本が世界に誇る名著の一つと言っても過言ではないでしょう。

しかし、実は私、今回(2022年11月某日)が初読みでございます^^; 世の中には素晴らしい本というのがあふれかえっておりまして、なかなか手を出すきっかけがないとすり抜けていってしまう作品も多いんです。

言い訳はそのくらいにしておいて、初めて『窓ぎわのトットちゃん』を手に取った感想はというと……

なんでもっと早く読まなかったんだ!!

素直にそう思いました。詳しい内容は後述しますが、少女トットちゃんの幼くも既に広大な草原のように爽やかに広がった優しい心に胸をうたれ、トットちゃんを見守る校長先生の海よりも深い愛情に感銘を受け……時に笑い時に泣きと、気が付けば大感動のうちにあっという間に読み終えてしまいました。

いつになっても読み継がれていってほしい本、そしてお子さまがいらっしゃる方にはぜひ、お子さんと一緒に読んでみてほしい本でした。

それでは、本書のあふれるほどの素晴らしさを少しでもお伝えしていきたい思います。

1.トットちゃんとは?

まずはタイトルにもついている「トットちゃん」についてご紹介しましょう。

トットちゃんは本書の主人公、小学生の女の子です。このトットちゃん、すごく良い子なんですお友達に対する思いやりにあふれ、いろいろなことに興味を持つ好奇心旺盛さを持って、と背中に羽が生えているように軽やかに自由に幼い生命力の輝きあふれた魅力的な女の子です。

しかし、実はちょっと困ったところもあるようです。

外に遊びに行けばお洋服がびりびりに破れてしまうほどやんちゃに遊んでお母さんになんて言い訳しようか頭を悩ませています。小学校でも、授業の内容よりも外を行き交う人や生き物の方が気になって外をぼーっと眺めたり、突然走り出したり……

これには先生も手におえず、トットちゃんは転校を余儀なくされてしまうほど^^;

このお転婆だけど魅力的な少女、トットちゃんは実在の人物です。皆さんよくご存じのあの女性です。博学で世界的にご活躍されている才女・黒柳徹子さんです。

『窓ぎわのトットちゃん』は黒柳徹子さんが自身の小学生のころを振り返り書かれた自伝なんですね。徹子さんなので「てつこちゃん」「てっちゃん」あたりがあだ名になりそうですが、「トットちゃん」に落ち着いたのは本の中にその顛末が少し語られていました。

執筆にあたられては自身のお母さまや当時のご友人にもインタビュー等されたようですが、ビックリするのはその記憶の鮮明さです! まるで昨日のことのように、生き生きとトットちゃんの感情が語られていますし、周囲の大人や友人の様子も目の前で同じ光景を思い浮かべられるくらい伝わってきます。

徹子さんの文章力あってのことなのでしょうが(実際、徹子さんの文章力はすごいです。簡単な表現ばかりなのですがその組み合わせだけでどうしてこんなに色鮮やかな情景を表現できるのでしょうか……!)、トットちゃん時代がいかに幸福に満ち溢れて、徹子さん生涯の心の栄養となったのかが読むだけでよくわかります。

徹子さんの小学生時代なので、時は太平洋戦争直前から突入までの激動の時期が本書の舞台です。見方を変えれば暗く辛いことも多くあったはずです。まだ小学生とはいえ、トットちゃんにも我慢や困窮との戦いもあったはずです。実際、本書の中にもそうした暗さも見え隠れしている部分はあります。

しかしそれを超越した明るさというか、消えることのない灯火のような生命力に満ちたトットちゃんの魅力に照らされて、本書を読んでいる時は私まで多幸感に胸がいっぱいでした。

トットちゃんと笑い、そして時に感動し……子供時代の「絶対大丈夫」という無敵な気持ちを思い出させてくれる読書体験となりました。

2.トモエ学園

本書の主な舞台となるのは「トモエ学園」という小学校です。前述しましたが、トットちゃんは少し変わったところのなる女の子だったので、小学校を転校していますが、その転校先が「トモエ学園」でした。

このトモエ学園を初めて訪れたトットちゃん、その目をくぎ付けにしたのは普通の学校ならあり得ないものでした。

何だったと思います? 本書を読んでいなければ絶対に当たらないと思います(笑)

なんと、電車。

電車の車両がグラウンドに置かれ、その中を教室替わりにして子供たちは勉強したり遊んだりしていたのです

いや~……羨ましい(笑) 私は関東圏に住んでいるので電車に乗ること自体は日常なのですが、たまに博物館とかに行くと、引退した電車の車両が置かれていたりして、アレに乗るのはなんか心躍るんですよね。あるわけない場所にあると、非日常感が出て心ときめくのかな? 大人ですらこんな感じなので、好奇心旺盛な女の子・トットちゃんにはたまらない出会いだったろうなと、想像すると微笑ましくなります。

このトモエ学園、第一印象からインパクト大ですが、その教育方針も校舎(?)に負けず劣らずインパクト大!です。トモエ学園の創設者、校長先生を次の項でご紹介しましょう。

3.トットちゃんを見守る素敵な大人、小林校長

『窓ぎわのトットちゃん』には老若男女、たくさんの人々が登場します。中でも印象的なのがトモエ学園の創立者であり校長の小林先生です。

グラウンドに電車をおいて教室替わりにしてしまうような発想の持ち主なので「ちょっと変わった人なのかな?」というのはなんとなく想像がつきます。しかし本書を読めば読むほど、小林校長の並々ならぬ魅力にひきこまれていきました。

トットちゃんと小林校長の出会いも印象的です。トットちゃんが小林校長と初めて出会うのはトットちゃんがトモエ学園へ転校することが決まる前、面接の時でした。本書の冒頭でいきなり小学校を転校しなければならなくなったお転婆トットちゃん、一緒に面接に向かうお母さんはそれはそれは緊張しているわけです(気持ちすごいわかる)。トモエ学園について電車の教室に目を輝かせるトットちゃんに、お母さんは内心「あなたが気にっても学校側がトットちゃんを気に入るかはわからないわ……」と冷や冷やしているわけです。

そんな緊張感がにじみでるシーンに、登場するのが小林校長です。ニコニコと穏やかな笑顔を浮かべ、トットちゃんを面接するべく2人きりで向かいあうシーンへと続きます。

面接、大人でも緊張しますよね。何を聞かれるんだろう? どう答えるのが正解なんだろう? トットちゃんと別れて一人面接の終わりを待つお母さんの頭の中はぐるぐるしていたことでしょう。

しかし、小林校長の面接はとても、とても変わっていて、それでいて彼の人柄を読者に悟らせるに十分な思いやりあるものでした。

どんな内容だったかはぜひ本書を手に取ってほしいのですが、小林校長は『窓ぎわのトットちゃん』の第2の主人公と言っていいほど、登場回数も多く、その分、人柄の素晴らしさに胸をうたれました(こんな先生に出会いたかった…)。トモエ学園はトットちゃんのような、教室に座っていっせいに同じことをする教育にはなじめない子供たちを預かり、その子の個性を尊重し自信と互いへの尊敬を育んでいく、そんな教育方針の学校です。

小林校長の教育方針、そして実際の活動内容には賛否がもちろんあることでしょう。しかし大人になってからも大事な思い出として徹子さんの心に残り、『窓ぎわのトットちゃん』という世界的ベストセラーを生むほどの原動力となった小林校長とトモエ学園の日々からは、学ぶことがたくさんありました。

私にも息子がいて、彼との接し方は試行錯誤に後悔がまじりあう複雑な毎日です。小林校長のように教育者としての信念を貫くことはとても真似できそうにないですが、時に思い出して真似してみよう、と母親としての私の心の栄養にもなったように思えます。

4.ぜひお子さんとご一緒に

大人が読んでも十分に楽しめる『窓ぎわのトットちゃん』ですが、この本、お子様にもおススメです。

お話がエピソードごとに細かく区切ってあるため、1つ1つのエピソードは大人の読むスピードで5分前後の長さです。お子さまが自分で少しずつ読み進められる分量ですし、毎晩、寝る前に読み聞かせるのにもちょうどよい長さとなっています。

また、文章はトットちゃん目線のためか、簡単な表現を使用してあり読みやすく、それでいて木漏れ日のような温かみを感じさせる名文です。ただ、漢字は多いので小学校低学年から中学年までは読み聞かせ、それより上のお子さまであれば自分で読んで、という感じでしょうか。

何より、トットちゃんの持つ好奇心旺盛さと他人を思いやる心、小林校長の子供たちへの愛情と教育への情熱は子供の心の栄養になると思います。

私も自分が読み終えた後で「このお話はぜひ息子にも知ってほしい!」と思い、毎晩読み聞かせを始めました。最初は「駅でキップ?」「小学校で退学?」など、少々時代のギャップに戸惑ったようですが^^; 、今では「もう少し読んで」と読み終わるタイミングが難しいほどよく聞いていくれるようになりました。

子供心にも作品の持つぬくもりが伝わったのかと嬉しく思っています。


いかがでしたでしょうか?

大人が読んでも、子どもが読んでも楽しめる本というのはそう多くはありません。『窓ぎわのトットちゃん』はそんな珍しい良書の一つです。ぜひご自身で、ご家族で、楽しんでみてほしいと思います。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。

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