元CIAエージェントが書いた本物のミッションインポッシブル『アルゴ』読書感想

元ライターが作家目線で読書する当ブログへようこそ!

今回ご紹介する本はこちら↓

『アルゴ』  アントニオ・メンデス & マット・バグリオ  ハヤカワノンフィクション文庫

2012年に同タイトルで映画化されたことで

知っているという方も多いのではないでしょうか。

この本はCIAが主導した「クレイジー」という形容がぴったりな

極秘作戦の様子を克明に記したノンフィクションドラマです。

筆者は実際に作戦を指揮し現場にも出て行った

元CIAの腕利きエージェント自身。

極秘作戦の被害妄想レベルの入念な準備の様子と

緊迫した決行時の心境などを、

当事者がリアルに語ってくれているのです。

CIAの名前は知っているけど、その内情はほとんど外に漏れることはないであろう

作戦の一部始終が、エージェント自らの筆で明かされるなんて、

それだけでワクワクさせる本ですよね。

しかも本書で採り上げている極秘作戦は

歴史を揺るがした大事件を背景にしているんです。

時は1979年。

この年に起きた大事件とは、イランの首都テヘランで発生した

アメリカ大使館襲撃事件です。

襲撃事件発生時、大使館にいたほとんどのアメリカ人がイランの過激派により

囚われの身となり、その後長期にわたって拘束生活を送ることとなりました。

私は生まれる前なので、当時の様子はさっぱりわかりませんが、

少なくとも、アメリカ全土を揺るがした大きな出来事であったことは確かだと思われます。

一時70人近い人質が生まれた大事件ですが、

『アルゴ』ではその一大事件でさえ実は脇役です。

大使館襲撃事件の裏側で何が起きていたのか、

長らくトップシークレットだった事実が本書により明らかにされました。

本書では、作戦が生まれる前、大使館襲撃事件よりさらに9カ月前の

大使館立てこもり事件から記述が始まっていますが、

大部分は割愛して、クレイジーな作戦がたてられることになった

その背景からご紹介しましょう。

大使館襲撃事件が起きたその時、

大使館にいたほとんどすべての人間が人質にされてしまいましたが、

実は、運よく捕まらずにテヘラン市内へ逃れ出ることができた

6人のアメリカ人たちがいました。

逃れ出たと言ってもそこは結局テヘラン市内。

道を歩けば周りはイラン人だらけなわけです。

見つかれば即、過激派に通報される危険な状況には変わりありません。

知人の家にかくまってもらったりと、テヘラン市内でも

逃走劇を続ける6人ですが、やがて救いの手が差し伸べられます。

それがカナダ大使館に駐在していた大使と職員たちでした。

カナダ大使らの計らいにより、6人の逃走者たちは

なんとか衣食住の確保された避難場所を確保します。

しかし、いつイラン側に彼らの存在が知られてもおかしくない状況で、

さらに、マスメディアたちも「大使館から逃げた人たちもいるのではないか?」と

嗅ぎ付け始めます。

このまま彼らを放っておけば、確実にイラン側に発見され、

過酷な運命をたどることは明白でした。

「6人のアメリカ人をイランから脱出させなければならない」

CIAはそう結論をだしました。

CIAで文書偽造や変装のスペシャリストたちを率いていた筆者(アントニオ)は、

作戦の立案に携わります。

イランの過激派たちの目を欺いて、6人の素人たちを逃亡させるには

彼らを大使館職員ではない、「別の何者」かに変装させる必要があると

考えたアントニオは、頭を悩ませます。

変装のスペシャリストであり、過去にも似たような任務を経験していた

アントニオは、変装による国外脱出という異常な状況が、

素人にとんでもないプレッシャーをかけることを知り抜いていました。

6人のアメリカ人が無理なく変装でき、さらにイラン過激派をだまし抜ける

うまい手はないものか……

そしてアントニオの頭に振ってきたとんでもアイディアが

「ハリウッド」だったのです。

映画の予告でも見たことがある方もいらっしゃるでしょう。

アントニオ、なんと6人のアメリカ人を映画クルーに変装させてしまう

突拍子もない作戦を思いついたのです。

しかし、突拍子もなかったのはアイディアだけで、

そこからの準備は「え!? そこまでする!?」という

徹底に徹底を重ねたもの。

なんと、6人が所属する設定の映画会社まで作っちゃうんです。

他にも、イランの入国審査スタンプに使われるインクの色まで

事前に調べ上げる「さすがCIA!」の情報収集力。

そしていよいよ筆者のイランへの入国から、

6人を連れての脱出まで、

作戦のすべてが『アルゴ』には詳しく書き込まれているんです。

失敗 = 死 を地で行く本物の緊張感に、

作戦が本格始動する後半は頭の中で「ミッションインポッシブル」の

テーマが流れまくってました。

それくらいドキドキハラハラしながら読んでいったわけですが、

本書を書いたアントニオ・メンデスは元CIAのエージェントであり、

文章家ではないんです。

そのためか、読みやすい、分かりやすい、盛り上がる文章を期待して読むと、

ちょっと期待外れな部分はあります。

全体的にもうちょっと削った方がいい冗長な文章が多いですし、

逆にもっと付け足した方が絶対に面白くなるのに、という

要素に欠けていたりします。

例えば、CIA幹部と大統領の政治的駆け引きといった

作戦のゴーサインを出す側の事情なんかはほとんど

書かれてないわけです。

筆者はあくまで現場で働くエージェントだったわけなので、

これは仕方のないところもありますが、

取材して書き込めれば、確実に臨場感はアップしたでしょう。

そう思うと、ノンフィクション作家でベストセラーを何本も

出しているマイケル・ルイスはやはりすごいなと思いますね。

取材力も構成力も、彼はやはり文筆家なんですね。

でも、こう書いているからと言って、

『アルゴ』が面白くないわけではないんです。

むしろ多くの方に読んでほしい面白い本です。

『アルゴ』の面白さは何と言っても

一般人には知ることさえできないトップシークレットの内容を

当事者が、リアルな体験を語るというそのテーマの珍しさにあります。

世界広しと言えど、ノンフィクションで『アルゴ』のような内容の

本を書ける人は、筆者くらいのものでしょう。

文章は「書く前に9割がた出来が決まっている」なんて

言葉を聞いたことがありませんか?

この言葉は書く人間にどれだけの語彙力があるか、

構成をよく練ったか、といった文章を支える力そのものが

問われていると解釈もできます、が、

「文章のテーマがどれだけ人の心をとらえるものに設定できるか」

という、アイディア力、思考力が問われているという意味もあるんです。

いや、むしろ後者のほうがウェイトが大きい、

多くの文章を読んできた私にはそんな実感があります。

本当は両方揃っているのが最善であるのは言うまでもないですが^^;

『アルゴ』はまさに、テーマ設定の大切さを教えられる本でもあったと思います。


いかがでしたでしょうか?

スパイを主人公にした映画や小説はよく見ますが、

「本物のスパイ」が書いた本というのは珍しいです。

映画版ではよりストーリーが盛り上がるように、

演出されているらしいのですが、

本では最後の脱出シーンは案外あっさりしています。

でも、それもすべては「何事もなく無事に脱出する」を達成するため。

「そこまでする!?」の準備の様子にこそ

しびれるようなリアリティがあり、本書の一番面白いところです。

ぜひ読んでみてくださいね。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。

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