経済史の本だけど、わかりやすく読みやすい『イギリス 繁栄のあとさき』読書感想

元ライターが作家目線で読書する当ブログへようこそ!

今回ご紹介する本はこちら↓

イギリス 繁栄のあとさき   川北稔  講談社学術文庫

さて、この本、タイトルだけでどんな内容かわかるでしょうか?

この本は家族がkindleにて購入した本で、

いつの間にかリストにあがっていたので、

最初タイトルを見た時の私の感想は

「小説? それとも新書?」

とジャンルすら不明で

「どちらにしろ、何やら難しそうだ」という印象でした。

しかしこういう時に便利なのが、よく裏表紙に書いてある

本の内容を要約した紹介文です。

ここに、それを引用してみましょう。

”今日、イギリスから学ぶべきは、勃興の理由ではなく、成熟期以後の経済のあり方と、衰退の中身である―。産業革命を支えたカリブ海の砂糖プランテーション。資本主義を狙ったジェントルマンの非合理性。英語、生活様式という文化遺産…。世界システム論を日本に紹介した碩学が、大英帝国の内側を解き、歴史における「衰退」を考えるエッセイ。”

とりあえず、小説ではなさそうですね。

どうやらイギリスの歴史を取り扱った本らしいことはわかりました。

ただ、短い文章に専門用語を詰め込み過ぎたためか

内容がぼやけてるというか、はっきり言うとわかりづらい^^;

本書を読んだ私が、短くまとめると、こうなります。

”日本の経済が衰退している気がするが、対策に何をすべきかわからない。だから大英帝国という超強国から衰退したのに先進国であり続けるイギリスに学ぼう”

どうでしょうか? 少しはわかりやすくなったでしょうか?

この本のメインテーマはイギリスの経済史です。

内容紹介文が小難しそうな雰囲気をかもしだしていますが、

経済史をテーマにした本にしては読みやすい部類に入ると思います。

経済史といっても、産業革命の影響がどうの、

海外植民地経営がどうの~という、

ザ・経済史という内容にも触れてはいるのですが、

それだけにとどまらず、

話題は文化や生活スタイルにまで話は及びます。

例えば、イギリスが大英帝国と呼ばれていた時代が

終わってから現在、かなりの時間が経過していますが

それでもイギリスは先進国であることに変わりありません。

その理由の一つに、イギリスのお茶文化がある、

という驚きの理由が飛び出したりするんです。

今までの知識にはそんな引き出しなかった……!

純粋に目からウロコの驚きでした。

経済史の本でありながら、着眼点が個性的で、

それが読んでいて新鮮で、魅力の一つになっています。

これは、筆者が「イギリスの近現代史」を専門とする歴史研究家であり、

経済学者ですらないことが理由かもしれません。

だからこそ、経済学者の手が回りにくい、「お茶文化すごい」

という発想がでてきたんでしょうね。

しかし、歴史家が書いた経済史の本というと、

「目新しいトンでも理論で人目をひいているだけではないのか」と

その説得力やリアリティを不安に思われる方もいるかもしれませんね。

私は経済・歴史共にド素人のただの読書好きなので

どこまでリアリティをもった理論なのか、という検証はできません。

しかし、私が読む限りは、筆者の分析、解説内容には説得力がありましたし、

経済学者が好みそうな「世界システム論」といった用語の解説は、

むしろガチガチの経済史の本よりもわかりやすく伝えてくれていたと思います。

少なくとも、理論展開に無理がなく、読みやすい文章だったことは保証します。

最後に、本書が求める、「イギリスはなぜいまだに先進国であり続けるのか?」、

この問いに対する筆者の答えもまた、着眼点が個性的でした。

結論をここに記すのは止めておきますが、文化が経済に及ぼす影響を

重視する筆者ならではの結論だったと思います。

ただ、「それを言っちゃあおしまいよ」という感じではありました^^;

日本はどうやって真似ろというのか……

本書は、その「日本がこの先どうするべきか」という具体的な解決方法にまでは

言及していません。

ただ、「日本もイギリスを見習って文化面で何か、

他国にマネされ、輸出できるようなものを想像すべきだ」という

筆者による思考の誘導があるのみです。

それゆえ、読み終わるといろいろと「どうしたらいいのか?」と

自然に考えさせられました。

こういう、読み終えた後でもその本について考えさせるような余韻が残る本は、

良い本だなと私は思っています。

特に、小説でもない、経済史の本で余韻を残す本というのは珍しいです。

それだけ、筆者の文章力が巧みな証拠ですね。

ただ、その筆者の誘導の中に一か所「本当にそうなのか!?」と

強く疑問に思った部分はありました。

本文をそのまま引用しますと

”経済の空洞化を救う道として、科学・技術教育の推進を唱えるようなことは、やはり、超長期的にはあまり意味はない。”

これ、本当にそうでしょうか?

私たちが普段、もはや当たり前のように使っているスマホ。

スマホを世界中に知らしめたリンゴマークの企業は、

私たちの生活スタイルを一変させたという意見に

反対する人は少ないと思います。

科学技術の結晶が文化面にまで強い影響を及ぼした良い例ですよね。

日本でスマホが買えるようになった当初、

みんなこぞってスマホデビューしたがっていた記憶があります。

誰もが、スマホに憧れた時代、それがちょうど本書が文庫化された

2013年~2014年ごろではなかったでしょうか。

今、スマホを忘れただけで一日中ソワソワして過ごす羽目になる

現代人を見て、筆者の主張が変わったのか、

それとも変わらないままなのか、聞いてみたいという

少し意地悪な気持ちを持っています。


いかがでしたでしょうか?

私は科学系の本も好きでよく読むので、

筆者の主張とは意見が異なる部分もあり、

でもそれだけに本書の内容は印象深く残っています。

繰り返しになりますが、読書が終わった後にも余韻を残す本は

数ある本の中でもその本が良い本である証拠だと思います。

タイトルや紹介文からは少しハードルの高さを感じさせますが、

読みやすく分かりやすく、そして余韻も残す良い本だったので

ぜひ多くの方に手に取って見てほしいと思います。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。

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