読書感想|化け物に出逢いました(BUTTERバター、柚木麻子)

元ライターが作家目線で読書する当ブログへようこそ!

今回ご紹介するのはこちら↓

BUTTERバター 柚木麻子 新潮文庫

タイトル通り、内容にもバターがふんだんに登場しますし、

人間心理への踏み込み方も濃密な作品です。

この作品を一言で表すと ”化け物” ですね。

多くの本を読んでいると、年に一冊くらい、

この作品のような化け物に出逢います。

それでは、以下ネタバレありで化け物っぷりを

ご紹介していきましょう。

目次
1.おおまかなあらすじ
2.深く傷つく登場人物たち
3.現実の事件との関係


1.おおまかなあらすじ

主人公の町田里佳は雑誌記者。

男たちをだまし、お金を奪い、殺した罪で逮捕された梶井真奈子へ

独占取材しようとコンタクトを図っている。

しかし、面会すらできず苦戦していると、親友の伶子が

梶井真奈子は料理好きだから、レシピを聞いてみたらどうか?

とアドバイスをくれる。

そのアドバイスに従って手紙を出すと、梶井真奈子から面会の

許しが出た。

初対面から終始ペースは梶井真奈子のもの。

里佳は、獄中で料理もグルメ探索もできない梶井真奈子の命令通り、

いろいろなものを食べていく。

そのうちに、痩せていた里佳の身体は太りだし、

伶子や恋人の誠からも心配されるようになってしまう。

しかし、欲望に忠実に生きてきた梶井真奈子の不思議な魅力に

引き付けられた里佳は、言われるがまま、今度は梶井真奈子の

実母と妹が住む実家を訪ねることにする。

この旅に強引についてきた伶子に戸惑う里佳だったが、

伶子の鋭い推理と逞しい行動力により、梶井真奈子の過去の

一端を暴くことに成功する。

そして、取材のために梶井真奈子の思考に入り込みすぎている里佳を

心配し、彼女の心を取り戻すために伶子は暴走を続ける。

伶子は梶井真奈子が逮捕の直前まで一緒に暮らしていた男の元に

DVから逃げ出してきた女を装い、居候し、梶井真奈子のさらなる秘密を

暴こうとする。

一方、伶子が行方不明になったことに、梶井真奈子が関係しているに違いないと

考えた里佳は、梶井真奈子を問い詰め、伶子の居所を知る。

伶子を迎えに行った里佳だったが、そこにいたのは深く傷ついた様子の伶子だった。

伶子は、梶井真奈子と同じように男に料理を振る舞い、一緒に暮らしたが、

男は伶子を邪見にするばかりで、梶井真奈子の時のように心を開いてはくれなかったのだ。

傷ついた伶子を見て、梶井真奈子にこれ以上深入りはできないと思う里佳だが、

真奈子が通っていた料理教室に入会できることになり、伶子と共に通うことにする。

そこで知ったのは、男たちを手玉に取り自信満々に振舞っていた姿ではなく、

女の集団の中で孤立してしまう別の梶井真奈子だった。

彼女と同じものを食べ、故郷にいき、料理教室にも通った里佳は

ついに梶井真奈子の独占記事を発表する。

記事は売れ、これで梶井真奈子に会うこともないと落ち着いた里佳だったが、

真奈子は獄中結婚し、その相手である記者が別の独占取材記事を発表し、

そして梶井真奈子の自伝を発売すると発表した。

その記事の中で、里佳の書いた記事は嘘ばかりであり、取材の仕方も不快であった、

とこれまで信頼する様子を見せていた梶井真奈子とは思えない辛辣さを見せていた。

会社からも自宅謹慎を申し渡され、梶井真奈子との面会も叶わなくなった里佳は、

動揺し、傷つき、ボロボロのまましばし一人自宅にひきこもるが、

なんとか最低限のものを食べ、周囲の助けを得て仕事にも復帰する。

里佳は取材を通して知り合った梶井真奈子に関わりのあった女性たちに

連絡をとり、今度は女性の視点からみた真奈子の記事を書こうと決意する。

そして、これからも自分の力で生きていくために、マンションを買い、

これまでお世話になった母、友人・知人らを招いたパーティーを開く。

メニューは梶井真奈子が逮捕前、作ろうとしていた料理、七面鳥の丸焼き。

皆で美味しく料理を食べ、これからも何かがあっても、助けてくれる人が

いるなら大丈夫、と里佳は充足感にひたってその日は眠りにつくのだった。

2.深く傷つく登場人物たち

冒頭に、この作品は化け物だと記しました。

主人公の里佳は作品の中で、仕事も、恋も、友情も、痛めつけられるものは

全て梶井真奈子によって傷つけられます。

それでも梶井真奈子に食い下がる里佳に信頼しているように思わせるのですが、

真奈子は反故にして里佳の精神にとどめの一撃を刺すのです。

獄中に居ながらにして梶井真奈子は殺人に近い行為を実行するのです。

梶井真奈子は、作中に生きる、分かりやすい化け物だと言えます。

しかし、私が感じた作品の化け物は、梶井真奈子の悪意よりも

恐ろしいものだった、と感じています。

この作品は、梶井真奈子による精神的な殺人行為を描いている一方、

主人公里佳、その親友伶子が、いかにその痛みから再生するかも

描かれています。

多分、本書のテーマを一言でいえば「人間は強い」、だと

読みながら考えていました。

梶井真奈子の疑似殺人の犠牲にあいながらも、里佳も伶子も、なんとか

社会復帰を果たし、家庭と職場に居場所を求めていくことになります。

彼女たちはお互いに支えあいながら立ち上がり、人間の打たれ強さを

象徴する存在だと思います。

その姿は感動的ですし、深く登場人物の心情を書きこめる小説という

表現方法を最大限に活かし、作者の言葉のセンスや文章力も素晴らしいと思うのです。

ですが、読んでいて読者である私までも身を切られるような思いを

体験する羽目にもなりました。

小説は主人公の人生を疑似体験するためにあるものだと私は思っているので、

この作品を読んで「辛い、苦しい」と思うのは当然ではあります。

梶井真奈子はその罪が事実なら、大量殺人犯です。
(※作中では限りなく黒に近い灰色で、彼女の罪の有無は明らかにはなりません)

その彼女を相手取って簡単な痛みで済むはずがないといえばそうですし、

痛みが強ければ、その後の再生がよりドラマチックになるという演出上の

効果も期待できます。

だからこそ、主人公たちを徹底的に痛めつけたのか、と納得することはできます。

とはいえ、思ってしまったのです。

「ここまで主人公たちを痛めつける必要があったのか?」と。

作品の主要登場人物たちはすべて女性です。

そして、作者もまた、女性であることにうっすらとした恐ろしさを感じます。

女性が女性を痛めつける物語、それを考え、克明に描写した本書に潜む

本当の化け物の正体とは、作者自身ではないかと、

読み終えたときに頭に浮かんだ率直な感想でした。

3.現実の事件との関係

ここで、少し内容からは離れて、本書が話題を呼んだ理由の一つである、

現実の事件との関係に触れておきたいと思います。

多くの男と関係を持ち、結婚詐欺や殺人で逮捕・起訴された梶井真奈子ですが、

彼女のモデルとなった人物として木嶋佳苗という女性が浮かびます。

彼女は既に裁判も終了し、死刑の実刑判決を受け、今も執行を待つ日々を

送っています。

罪の内容や性格、生い立ちなどにリンクが見られるこの両者ですが、

どこまで梶井真奈子に反映されているのか、興味を持ちました。

作品の巻末にも木嶋佳苗について書かれた本を参考図書に挙げられていましたので

一冊読んでみました。

毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記  北原みのり 朝日新聞出版

内容はタイトル通りで、著者が木嶋佳苗被告の裁判を傍聴して、その様子と感想が

書かれています。

BUTTERと読み比べると明らかになるのは、木嶋佳苗 ≠ 梶井真奈子である

ということです。

私が買ったBUTTERの帯にはノンフィクション・ノベル……と書かれていましたが、

BUTTER自体はフィクションです。

おそらく実際の事件を作家が調べて踏まえて書かれた…という意味で「ノンフィクション・ノベル」という

言葉が使われていたのだと思います。

言葉の定義というのはややこしいですね。

2冊を読み比べて、木嶋佳苗と梶井真奈子の差はざっと以下の通りです。

 ・木嶋佳苗は有罪確定、梶井真奈子は裁判中であり容疑内容は限りなく黒に近い灰色。

 ・木嶋佳苗よりも梶井真奈子の方が自己肯定感が低く幼い印象。

 ・出身地が異なる。

 ・家族構成が異なる。

逆によく似ているところは

 ・妹と仲が良く母親と折り合いが悪い。

 ・美食家である。

 ・料理教室に通っていた。

 ・ブログを持っていた。

 ・獄中結婚し自伝を発表した。

こうして列挙してみると、細かい要素を現実から採用しつつ、

梶井真奈子の性格は作者オリジナルであることが分かります。

ちなみに、『毒婦。』の感想ですが、やや被告に感情移入しすぎな描写で

女性はともかく男性にはお薦め致しません…


いかがでしたでしょうか?

BUTTERは昨今流行りのキャラクター系ライトノベルとは違い、

ずしりと重い作品です。

読了後に元気が出てくるようなストーリーでもありません。

しかし、その分読み込みがいがあり、2度、3度と再読するに耐えられる

深みを持っていると思います。

まとまった時間のある時に読むのがおススメです。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!

よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。