読書感想|直木賞作家によるファンタジーミステリー、ネクロポリス(恩田陸)後半

前半では、まだ読んだことがない人向けに、『ネクロポリス』の面白さをネタバレなしでご紹介しました。

前半はこちらからどうぞ
読書感想|直木賞作家によるファンタジーミステリー、ネクロポリス(恩田陸)前半

目次(前半)
 1.簡単なあらすじ(ネタバレなし)
 2.本書の面白さ
    ・冒頭から面白さエンジン全開
    ・ファンタジー? それとも ミステリー?
    ・豊富な言葉の数々……
 3.こんな人におススメ


後半はもう読んだ人向けに、「私はネクロポリスをこう読んだ!」という解題を書いていきます。
最後には『ネクロポリス』が気に入った人には「次はこの作品がおススメ!」を紹介しています。
そちらも参考になればうれしいです。

目次(後半)
 4.わたしは『ネクロポリス』をこう読んだ!
 5.『ネクロポリス』が好みの本だった人は次はこの本がおススメ!


『ネクロポリス』はページをめくる手が止まらないほどの面白い作品なのですが、ネットの感想を読んでいると

・最後があっさりとしすぎ
・なんだかよくわからない終わり方をしていた
・うまく丸め込まれた感じがする
・盛り上がるだけ盛り上がって淡泊な終わり方

などなど、少し終わり方に「?」と疑問を感じる方が多いようです。
私も初めて読んだときは「もったいない終わり方をしているな」という感想を抱きました。

しかし再読すると、同じ終わり方でも、「この終わり方でよかったのだ」という感想に変わりました。

それは『ネクロポリス』のテーマを読み解けたからです。

これ以降はがっつりネタバレがありますので、読んでない方は要注意です。

4.わたしは『ネクロポリス』をこう読んだ!

『ネクロポリス』はファンタジーやミステリーの要素に引っ張られてどんどんと読み進められる作品です。

特にジュン、ケント、ラインマンの3人が原始のアナザー・ヒルへ向かう時点では、読者の期待と興奮はマックスです。

そして辿りついた場所は様々な時代がごちゃごちゃに混じりあったアナザー・ヒルで、住人たちは誰もいなくなっている……
主人公のジュンは不安と焦りでパンクしそうになる……

と、ここまで読者の興奮を煽っておいて、結局最後は城の中にみんながいて、死んだかと思った人もみんな無事。

何が起こったのか三役からの説明はあるし、血塗れジャックの正体や黒婦人の部屋が血塗れになった原因もすべて解明はされます。

しかし、おそらくたいていの読者は、最後はハラハラとした冒険活劇的要素を求めて読んでいたのではないかと思います。

この作品が持つ、ファンタジーとミステリ要素にここまで引っ張られて読んできた余韻がまだ残っているための、拍子抜けした感じ、というのが正直なところでしょう。

私も初めて読んだときにたどり着けたのは、ここまででした。
恩田陸先生は本当にこの最後でよかったの? とすら思っていました。

さて、では今回2回目の読破でしたが、私の感想は「このラストでよかったのだ」というものに変わっています。

それは、『ネクロポリス』の持つテーマが、「原始の世界への回帰」だと気づけたからです。

「原始の世界」というと、類人猿が石器の斧を持ってエッサホイサやっている絵が思い浮かんできますが、ここでは物資的存在である人間と、精神的存在である人間とがしっかり混じりあった状態のことをさしています。

抽象的過ぎて分かりにくいと思うのですが、物質的人間とは、現代の科学的ですべてに理屈がつけられ、合理的、理性的なものをよしとする人間、といったところで、

精神的人間とは、不思議なものは不思議なまま、目の前で起こることをそのまま受け入れる非合理的で非科学的なスピリチュアルな人間、といったとこでしょうか。

東京やアメリカは典型的な物理的人間の世界でしょう。

対して、V.ファーという国は、「ヒガン」という非科学的な現象をそのまま受け入れる伝統文化が根付いていることから、物理的・精神的人間性がほどよく混じりあった状態にあるといえます。

『ネクロポリス』は大方、ジュンの視点で描かれています。
彼の行動と思考の変遷が、この物語の鍵です。

まず、最初、アナザー・ヒルに訪れたばかりのジュンは、完全なる現代人です。

ジュンは研究者という職業のせいもあって、「お客さん」や「ヒガン」すべてに彼は懐疑的です。

アナザー・ヒルへの門の付近で飛び交う「お客さん」の存在も、彼には「人魂って実はリンが起こす化学反応なんだよ」と同じような理屈で理解します。

あるがままに、「あれがお客さんかー(感心)」なんてことは思いません。

しかし、そんな彼にも劇的な変化が待っています。

「お客さん」であるサマンサとの出会いです。(ポイント1)

実態があって、意思があって、コミュニケーションまでできる!

「お客さん」と直に触れ合ったジュンは、「ヒガン」で「お客さん」に会えるという事実を信じます。

信じはしますが、彼はまだまだ現代文明の申し子です。

このあと、第2の殺人事件も起こり、「ガッチ」という犯人捜しが行われ、ジュンは精霊の恐ろしさを目の当たりにしますが、それでも彼は、「ガッチには質問の仕方によって抜け道があるのではないか?」と、その効果を否定します。

V.ファー出身の登場人物たちはジュンの考え方に対して、「ガッチを疑ったこともなかった」という主旨のコメントをしていますよね。

ここに、両者の考え方の決定的な違いがまだある状態です。

しかし、この後起こる黒婦人の殺人事件(ポイント2)により、ジュンは謎の影という存在を知ったり、「お客さん」が海に浮かんで大量に姿を現したりと、理屈では説明しきれない様々な経験をします。

彼は徐々に、あるがままに受け入れることを許容していきます。

そして、彼はまたもサマンサに会い、重要な情報を知らされるのです(ポイント3)。

サマンサから「私は下から来たの」と教えられるジュンは、その意味を考え、サマンサが現在のアナザー・ヒルではなく、原始のアナザー・ヒルにいるという事実にたどり着きます。

彼はアナザー・ヒルがいくつもの時代が重なり合っている場所だという、現代文明からすると説明のつけようもない状況をしっかりと承認するのです。

ジュンの考え方が物語開始当初とは全く変わりました。
そして、彼は最後の最後にラインマンに自分が思いついたアナザー・ヒルとラインマンの来歴の仮説を披露します。

実は、このジュンのたてた仮設自体は、わたしはよく理解できませんでした。
わかるようなわからないような……?
あまりに抽象論すぎて、感覚的に理解しても、言葉で説明できない感じです。

しかし、この感覚的な仮説にたどり着いたジュンこそ、物語を通して物理的人間から精神的人間へとシフトしてきた証であり、いくつもの時代のアナザー・ヒルが混じりあった 「原始の世界への回帰」 状態をよく象徴しているといえると思います。

本文中にも後半にちょいちょち記述がありますが、本来の人間は物理的存在でもあり、精神的存在でもあります。

ただ、現代は少し物理的にあまりに偏りすぎていないだろうか?

精神的存在である人間を思い出すべきなのでは?

恩田陸先生はそんなことを作品全体を通して語りたかったのだと思います。

ですから、物語の最後は、アナザー・ヒル、主人公のジュン、そして読者と共に 「原始の世界への回帰」 にたどり着いた、という終わり方でよかったのだ、と今回の再読で思えました。

・おまけ

ここまでで、いくつかのジュンの考え方を変える具体的なポイントに(ポイント1、2、3)と番号をふっておきました。

これは、ぱらぱらと確認するとわかるのですが、それぞれ、作品全体の25%、50%、75%経過辺りに該当しています。

シナリオや小説を書く時の基本に、主人公の変化を描くということがありますが、その変化が起こるポイントは、ちょうど、作品全体の25%、50%、75%の箇所が理想的と言われています。

『ネクロポリス』はまさに、理想的な箇所でジュンの変化が起こっているんですね。
これは実は、読者に面白さを届けるための文章を書く、大事なエッセンスなんですよ。


5.『ネクロポリス』が好みの本なら次はこの本がおススメ!

さらに『ネクロポリス』好きな方には、2冊、別の本をご紹介します。

米澤穂信「折れた竜骨」(創元推理文庫)

 がっつりファンタジーな世界の話ですが、その中で合理的な説明をつけたミステリーになっています。謎が解き明かされるシーンでは「なるほど!」と思わされっぱなしでした。

鴨志田一「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない」(電撃文庫)

 個人的にはすごくおススメのライトノベルです。最近読んだラノベの中では抜群に面白い。
 現代日本の高校生主人公ですが、「思春期症候群」という、思春期に悩みやうっぷんが溜まると現実ではあり得ないような現象(例:人から全く見えなくなってしまうとか)が起こります。
 主人公の友人の理系女子が、この現象を物理的に解説してくれるのが特徴で、ものすごく説得力があります。こんな賢い友達ほしかった。
 これも不思議な現象を小説の世界観の中で合理的に説明し、解決していく物語になっています。
 俗にいう、ハーレム系の小説で、魅力的なヒロインたちがでてきますが、主人公がしっかりと彼女を大事にしていますので、ハーレム系はちょっと……という女性でも大丈夫です。


いかがでしたでしょうか?

わたしなりの『ネクロポリス』解題でした。

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ここまで読んでくださってありがとうございました!

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