読書感想|直木賞作家によるファンタジーミステリー、ネクロポリス(恩田陸)前半

ご紹介するのは恩田陸先生の『ネクロポリス』(朝日文庫)です。
上下巻でボリュームのある作品ですが、一気読みできる面白さがあります(その秘密は後ほど)。
2017年に直木賞と本屋大賞をW受賞し、過去の受賞歴も華々しい名作家による極上ファンタジーでした!
この前半は『ネクロポリス』をまだ読んだことのない方に向けて、おススメの理由を書いていきます。
後半は既に読んだ方に、「わたしは『ネクロポリス』をこう読んだ!」という解題をメインにする予定です。

目次(前半)
 1.簡単なあらすじ(ネタバレなし)
 2.本書の面白さ
    ・冒頭から面白さエンジン全開
    ・ファンタジー? それとも ミステリー?
    ・豊富な言葉の数々……
 3.こんな人におススメ

   (後半)

 4.わたしは『ネクロポリス』をこう読んだ!
 5.『ネクロポリス』が好みの本だった人は次はこの本がおススメ!

(後半はこちらからどうぞ)
読書感想|直木賞作家によるファンタジーミステリー、ネクロポリス(恩田陸)後半


1.簡単なあらすじ

東京大学の博士課程で若き研究者であるジュンイチロウ・イトウ(以降、ジュン)は初めての「ヒガン」を過ごしにV.ファーまでやってくる。
アナザー・ヒルと呼ばれるV.ファーの人々の聖地では毎年11月の1ヶ月間、「ヒガン」が行われ、そこには死者がやってくるという。
死者がやってくるという非科学的な「ヒガン」に懐疑的で、興味津々のジュン。
しかし、今年の「ヒガン」はV.ファーの人々にとっても噂の的だった。
正体不明の殺人鬼「血塗れジャック」が出没しており、その被害者たちが「ヒガン」にやってこれば、その正体がわかるはず。
さらに、結婚するたびに旦那が死んでしまう「黒婦人、血塗れメアリ」が5人目の旦那が死んだ今年も「ヒガン」にやってくる。死んでしまった旦那たちが「ヒガン」に凝れば、その死の真相(メアリが殺したのか?)が今年こそわかるかもしれない。
期待と興奮と疑問が渦巻く中、ジュンたちは「ヒガン」のためにアナザー・ヒルへ向かうが、その入り口で死体が吊るされて発見されるという惨劇が起こってしまう。
ジュンたちは惨劇を「血塗れジャック」のしわざではないかと推理していきますが、今年の「ヒガン」は例年にない異常事態がどんどんと発生していき……

惨劇は「血塗れジャック」のしわざなのか?
「血塗れジャック」の謎は解けるのか?
ジュンは死者に会うことができるのか?
今年の「ヒガン」は無事終わるのか?

読者に様々な疑問をもたせて、物語は進んでいきます。

2.本書の面白さ

・冒頭から面白さエンジン全開

読者を小説に夢中にさせるために、小説家は作品の冒頭に「なにこれ? どうなるんだろう?」と思わせる小さな事件を起こします。
大体、1つの事件で済ませることが多いのですが、なんと、驚いたことに、『ネクロポリス』では、
25ページまでに4つも不可解な事件が出てきます!
「え? これどんな事件?」と思ってる間に「あれ? また変な事件が出てきたぞ?」と読者の頭は疑問でいっぱいです。
人間は知りたがる生き物ですので、疑問にいっぱいになった頭を解消しようとします。
つまり、これは続きを読むしかない!
『ネクロポリス』は他の小説よりも、読者を夢中にさせる面白さエンジンが全開なのです。

・ファンタジー? それとも ミステリー?

『ネクロポリス』をジャンル分けするとしたら、ファンタジーでしょうか? それとも ミステリーでしょうか?
どちらだとしても、『ネクロポリス』は両ジャンルのファンを十分楽しませる作品だと思います。

<ファンタジーとして読むなら>

物語の舞台となっているV.ファーはイギリスと日本の文化が混じりあって作られた、異国情緒あふれる国になっています。
この世のどこにもない国なのに、日本文化が融合しているおかげでどこか懐かしく、イギリス文化が混ざっているおかげで旅をしている時のような興奮を、両方味わうことができます。

さらに、「ヒガン」の間にアナザー・ヒルにやってくるといわれる死者ですが、本当にやってきます!
日本の幽霊のようなイメージではなく、作中では「お客さん」という表現が使われていますが、本当にそんな感じで、ひょこっとやってきて、ちょっと喋ったりしてはまた去っていく、という実態があって気まぐれな感じの怖くない存在です。まさに「お客さん」。
小説のいいところは日常では体験できないものを体験したかのように感じるところですが、怖くない幽霊に会えるなんて夢がありますよね。

主人公であるジュンは知的好奇心が旺盛な青年で、V.ファーにも「ヒガン」にも興味津々なうえに、「お客さん」にも会いまくります。読者のかわりとなって、どんどん質問したり、感じたことを述べていってくれるので、共感でき、同化して旅しているような気分になれることでしょう。

<ミステリーとして読むなら>
『ネクロポリス』には数多くの謎が登場します。
冒頭で起きるアナザー・ヒルの入り口に吊るされた死体もその一つですね。
ジュンや、V.ファーの人々は推理して、それを噂しあうことが大好きな設定なので、数々の推理を披露しあってくれます。
そのどれもが「なるほど」とうなずけるクオリティを持っています。
実在しない場所で、死者がやってくることが当然というファンタジックな世界観ですが、理性的・合理的な推理が繰り広げられるのです。

ただ、本格派を好む人は、本格派を読むような感覚で読んではいけない、とだけは釘をさしておきます。
推理の内容は合理的で、ラストにはちゃんと一通りの説明がつきますが、あくまでもこの世界観の中では合理的な説明がつく、ということです。
現実の世界に即した説明がつくわけではないので、ご注意ください。

・豊富な言葉の数々……

『ネクロポリス』を読んだ印象ですが、恩田陸先生は非常に語彙力が高く、美しい比喩表現を文章に多用する方だな、と思いました。

例えば、P15の中ごろに、アナザー・ヒルへ向かう人々と、見送りの人々がさざめきあっている様子を記述した文章があります。以下はその一部の抜粋です。

  ”老若男女が入り混じってバロック音楽のようなざわめきに溢れているのだ。”

バロック音楽??

音楽の時間にちらりと習ったような気がしますね。
簡単に纏められるような内容ではなかったので、リンクを張っておきます。
気になる方はどうぞ。

バロック音楽とは? (クリックするとWikipediaに飛びます)

問題は、バロック音楽がどんなものか、ではなく、こんな比喩を使う小説家がいるのだ、というところです。
ざわめきを音楽に例えても、具体的にバロック音楽と指摘して比喩に使う。
なかなか思いつかない表現だと思います。

直木賞などの賞をとる作品の特徴に、非常に豊富な言葉が用いられているということが、受賞作品をビッグデータとして解析したときに判明した、という話を聞いたことがあります。
それだけ、様々な表現を使用した作品は、その表現が意味するものが曖昧でも読者に魅力を感じさせるということでしょう。
恩田陸先生も華々しい受賞歴の持ち主です。なるほど、さすがデータは裏切らないというわけです。

3.こんな人におススメ

ここまで『ネクロポリス』の魅力を書いてきましたが、具体的には以下のような方におススメします。

・日常を忘れて興奮したい方
・ファンタジー好きな方
・ミステリー好きな方(本格派でなく、このミス系のちょっと変わったミステリーが好きな方向け)
・いろいろな本を読み過ぎて、少し変わった小説が読んでみたい方


前半はまだ『ネクロポリス』を読んでない方向けに魅力をお届けしました。
読むと分かるのですが、『ネクロポリス』は少し不思議なラストを迎えます。
すごく面白いのに終わり方が物足りなかった……という感想もチラホラと見られました。
しかし、この終わり方はこういう意味だったのでは!? という私的解題を後半に書いていきますので、そちらも読んでいただければ嬉しいです。

ここまで読んでくださってありがとうございました!

(後半はこちらからどうぞ)
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