読書感想|全てのビジネスパーソンに贈る小説(オレたちバブル入行組、池井戸潤)
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今回ご紹介する作品はこちらです↓
俺たちバブル入行組 池井戸潤 文春文庫
ドラマで大人気の『半沢直樹』の原作小説、第一作目といった方がわかりやすいですね。
本作と続編の『オレたち花のバブル組』がドラマ化されたのが2014年、
2020年に第3目『ロスジェネの逆襲』、4作目『銀翼のイカロス』がドラマ化されています。
ドラマはファンが多く(私もその一人です)、高視聴率です。
原作を読むと、その理由がよくわかった気がしました。
原作がすごいのはもちろんですが、脚本家の底力を感じます。
ドラマと原作の違いにも触れつつ、ご紹介していきますね!
目次
1.おおまかなあらすじ
2.原作とドラマ、面白さの違いはどこにあるのか
3.脚本家:丑尾健太郎さん
1.おおまかなあらすじ
※ネタバレありです
バブル経済も終盤のころに大手銀行に就職した半沢直樹。
将来安泰と言われていた業種だったが、バブルがはじけたことにより銀行の経営状況は悪化。
半沢が所属していた銀行も淘汰の波にのまれ合併し、東京中央銀行として生まれ変わった。
半沢は大阪西支店の課長として働いていたが、ある日5億円もの貸付金が回収不能となる事態が発生。
貸付先は「西大阪スチール」。
西大阪スチールは倒産し、貸金と相殺できる担保も預金もない状態であった。
支店長である浅野が強引に融資を取り付け、実行した矢先の出来事である。
半沢は貸金回収のため、社長の東田に面会するも、追い返されそのまま雲隠れされてしまう。
融資の責任者であるはずの浅野は、半沢に責任をなすりつけようと社内の根回しに走り回っている始末。
5億円の貸金を回収できなければ銀行を去らなければならないほど追い詰められる半沢だが、
東田には隠し財産があることをかぎつける。
さらに、隠し財産を作るために、会社の財務内容を粉飾し銀行から融資を取り付けたり、
会社が倒産したのも計画的だったことが判明する。
あろうことか、その手助けをしていたのは浅野であった。
半沢は西大阪スチールの取引先であり、連鎖倒産してしまい東田に恨みをもつ竹下と共に、
東田の隠し財産のありかを突き止め、貸金全額の回収に成功。
浅野を脅して社内での立場も回復し、栄転を勝ち取るのであった。
2.原作とドラマ、面白さの違いはどこにあるのか
そもそも、半沢直樹の西大阪スチール編は、ドラマと原作では筋書きにかなり違いがあります。
例えば、原作には黒崎(片岡愛之助)は出てきませんが、ドラマには出てきて半沢を邪魔します。
ドラマでは半沢と花(上戸彩)は仲がいいですが、原作では普通の夫婦並みにギスギスするシーンが多々あります。
ほかにも細かいことを指摘するとキリがないほどです。
しかし、このブログではその辺りを指摘していくのは主旨から外れますし、
半沢が最後には勝利するラストは変わりませんので、もっと物語を作る上での構造部分を
見ていこうと思います。
ちなみにわたしは脚本については素人ですので、一視聴者としてわかっている範囲で書いています。
①連続ドラマと小説の盛り上げ方の違い
ドラマを見てから小説を読んだ方はこんな感想を持ったんではないでしょうか?
「小説はそんなに半沢がピンチにならないなあ」
冒頭から5億円もの貸金が回収不可能になるという大ピンチには見舞われますが、
その後の展開は半沢の独り勝ちと言ってもいい連勝状態が続きますよね。
対して連ドラを思い出すと、毎回毎回、半沢大ピンチ!という場面が必ずあったのではないでしょうか。
それもそのはず、連ドラでは週1回、1時間の放送枠の中で、また来週も見たい!と
視聴者に思わせなければならないプレッシャーがかかっています。
それではどうしたら視聴者にまた見たい!と思ってもらえるかというと、面白い、心地よいと感じさせるシーンを
ドラマの中に組み込んでいく必要があります。
ミステリドラマであれば、毎回ちょっとした小さな謎解きや発見があり、物語全体を通して挑む大きな謎へ
近づいたぞ、という達成感を視聴者が感じることが面白さに繋がりますし、
恋愛ドラマであれば、攻略対象である人物と主人公の距離が少しずつ縮まっているという前進感が
心地よいと感じることになります。
それでは半沢直樹の面白さとはなんでしょうか。
半沢直樹の面白さは、理不尽でしかも大きな権力を持つ相手に、毅然と対応し自分の力で反撃する、
逆転劇にありますよね。
この主人公の魅力を視聴者に感じさせるために、分かりやすいのが毎回半沢をピンチに陥れること、
というわけです。
その点、小説はどうかというと、長編小説であれば、その中で2回、敵となる相手の凄さがわかるシーンを
いれることが望ましい、とされています。
敵が活躍して次々と主人公をピンチに陥れる、という展開もやりすぎは良くない、ということなんですね。
このピンチをいれるべきタイミングの差が、そのままドラマと小説の感想の差となってでています。
②半沢直樹はちょっと変わったキャラクターなんです
↑の文章、え?どういう意味?と思われたでしょうか。
そりゃ半沢は変わった人ですよね、ことごとく上司にたてついて、左遷上等の破天荒サラリーマンですから。
でも、ここで ”変わった” としたのはあくまで物語作りの上での話です。
物語の主人公としても半沢直樹は、実は破天荒な人なんです。
小説にしろ、ドラマにしろ、ゲームにしろ、物語と名の付くものには主人公が存在します。
読者や視聴者が動向を見守り、感情移入して自分のことのようにその運命に喜怒哀楽する相手と
言い換えていいでしょう。
主人公を通して私たちは物語を楽しみます。
そして、多くの物語に欠かせないのが、物語を通して主人公がどう変わっていくのか、という変化なんです。
物語の基本構造は ”対立” にあると言われてます。
主人公は必ずと言っていいほど、物語を通して ”敵” と戦うことになります。
この敵と戦うために、主人公は成長したり力を蓄えたりしていきます。
物語の面白さはその過程を疑似体験し達成感を得ることで感じているんです。
この面白さを強く感じさせるためには、物語開始当初の主人公は弱いほどいい、ということになります。
敵に翻弄されてしまう弱々しい主人公であれば、伸びしろは十分、敵に勝つというラストの快感が強くなりますよね。
しかし、ここで半沢直樹を思い出してみてください。
彼、最初から、ものすごく強いですよね。
レベルマックス状態、半沢はどんなピンチにも負ける気がしない!というキャラクターになっています。
主人公が最初から強い状態で登場して面白さを感じさせる物語にするのは、非常に苦労するはずなんです。
こんなことをやってのけるのはダン・ブラウンの『ロバート・ラングドンシリーズ』か
京極夏彦並みのずば抜けた表現力やら、他の物語を圧倒するほどの個性的な要素を持っていないと無理です。
半沢直樹は主人公の設定からして型破りで、難題にチャレンジしている、そんな物語なんですね。
難題をクリアしただけあって、原作小説、非常に面白いです。
おそらく、最初から最強主人公にした半沢を無敵状態のまま物語を突っ走らせて爽快感と安心感を
強烈に押し出すことに成功したからかな、と考えています。
これはドラマにも継承されていて、テンポのよい展開と、毎回ラスト近くで半沢がピンチを打開するという
内容にうまく反映されています。
そして、ここからはドラマ制作陣がうまくやったなーと思うところなんですが、小説ではほぼモブ扱いだった
登場人物にも厚みを持たせることにも成功しています。
例えば、『オレたちバブル入行組』では東田の愛人・未樹(壇蜜)は、小説ではちょっとしか出てこないし
セリフもないモブですが、ドラマでは東田を裏切ったりと悪女っぷりを発揮して、脚本に華を添えています。
これは実際に人が動いて演じるドラマならではの工夫ですよね。
原作を少し変えてしまうことにはなるので、失敗すれば総スカンになる可能性大の諸刃の剣ですが、
振るって大成功の事例になったと思います。
3.脚本家:丑尾健太郎さん
せっかくなので、半沢直樹のドラマ脚本家としてキャスティングに唯一名前の公表されている
丑尾健太郎さんについて少し調べてみました。
丑尾健太郎さんのキャリアは舞台やドラマの台本を印刷する会社からスタートしています。
そこで数多のシナリオの校閲をするうちに自分でも脚本を書くようになったという変わった経歴の持ち主です。
活躍の幅はドラマがメインですが、舞台や映画にも及んでいます。
2020年9月現在、脚本家・演出家マネジメント会社に所属してご活躍中です。
どこかにインタビュー記事でも出てないかな~? と探してみましたが、裏方の仕事ゆえか
前面に出てきたことはないようです(ちょっと残念…)。
丑尾さんの経歴を拝見して思ったのですが、文章力を培うにはもちろん書いてみること自体も
大事ですが、ある程度の量を読みこなす、というのも有効なんですね。
特に台本として印刷に回ってくるほどの文章ですから、一定以上の水準にあるものを
目にされていたのだろうと思います。
質の高い文章を精読する、文章を鍛える上で必要な努力ですね。
いかがでしたでしょうか。
池井戸潤作品は半沢直樹以外もドラマ化されているのに、原作小説を読むのは初めてでした。
ちゃんとした文庫一冊分の文章量ですが、読みやすい表現と分かりやすい展開のおかげで
サクサク読めますね。
内容も半沢に刺激されてなんだか闘志がみなぎってくる感じです。
サラリーマンの方には移動の間のお供に最適だと思います。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!
よろしければ感想など、コメントを残していってくださいね。