読書感想|SFらしいSFが読みたい人にお薦め!(しあわせの理由、グレッグ・イーガン)

元ライターが作家目線で読書する当ブログへようこそ!

しあわせの理由 グレッグ・イーガン 早川書房

海外からやってきたSF短編集です。

荒波を越えてくる作品は面白いというのが定番ですが、本書も例外ではありません。

「自分の想像力を超えるSFが読んでみたい!」という人には特にお薦めできます。

さらに、初読みの作家さんでしたが、経歴を調べてみると、かなりスゴい人でした。

数々のSF賞にノミネート、受賞されているのです。

それも世界各国の、ですよ。(日本でも受賞されています!)

今回は内容とともに、受賞されているSF賞のご紹介もしていきたいと思います。

それでは、これよりネタバレありですのでご注意ください。

目次
1.おおまかなあらすじ
2.グレッグ・イーガンの受賞歴
3.SF賞紹介


1.おおまかなあらすじ

全編、ハードSFと呼ばれる科学性の極めて高い設定の作品です。

SFならではの世界観も楽しめますが、各作品の持つテーマは哲学的です。

例えば、9作目の表題作でもある『しあわせの理由』は、人間の感情とは何か、という問いに挑んでいます。

人間の感情とは、突き詰めていくと脳の中の電気信号や化学物質によってもたらされるもので、

喜怒哀楽を感じる受容体が刺激を受け取って幸せや悲しみを感じたりしているわけです。

私たちは一日の中で数えきれないくらい感情がくるくると変わっていきます。

受け取った刺激を脳が目まぐるしく処理している結果が感情であり、良くも悪くも長続きするものではありません。

『しあわせの理由』の主人公はある日、その感情を感じるシステムが病気によって破壊されてしまいます。

常に幸せしか感じない、あるいは悲しみしか感じない世界は、苦行のように描かれています。

その後、さらなる治療により、主人公は感情を自由にコントロールできるようになります。

これでどんな苦しいことが起こってもすぐに幸せな気持ちに戻れます。

そして主人公は、新しい生活の中で恋をしますが、彼が自分の半生をうちあけると、

恋人はすぐに彼の元を去ってしまうのです。

失恋は痛く苦しく、出来る限り早く忘れ去ってしまいたい辛いものです。

主人公は失恋の痛みを自分ですぐに癒すことができる力があります。

しかし、その力を使うことなく、失恋の痛みを受け入れる道を選びました。

感情を消すことは簡単でも、苦しかったという経験は記憶として主人公の中に残るのです。

苦しみを知ってしまった後に、もう知らないでいる前の状態には戻れない、そう気づいたのです。

感情とは脳が引き起こす一時のもの、しかしその感情を持ったという記憶は長く蓄積されいつでも引き出すことができます。

感情をコントロールする力、聞くと便利そうですが、感情とは一時ものではない、と

気づかされる作品になっています。

他の8作品については以下に簡単に内容をまとめました。

①適切な愛

交通事故で重体になってしまった夫。

しかし脳だけは無事だという。

妻は夫を取り戻すため、夫の身体だけを再生させ、そこに脳を移植させる治療を行うことにする。

しかし、身体を作っている間、脳を保管しておくために妻は夫の脳を持った子供を妊娠しなければならなくなった。

妻は治療内容に嫌悪感を抱くものの、愛する夫のため、夫の脳を受け入れたのだった。

②闇の中へ

ある日突然、地上に出現するようになった吸入口。

黒い球状の形をしたそれは、地上にあるものを吸い込んでしまう。

男はその吸入口に取り残された人々を救う「ランナー」だった。

吸入口が出現して消えるまでのわずかな時間に、可能な限りの人を救い出す。

男は恐怖に駆られながらも、ランナーとして走るのだった。

③愛撫

警官であるシーゲルは、科学者の家の地下室でキメラが発見する。

頭が女性で身体が豹のそのキメラは、名前をキャサリンという。

ある日、キャサリンにそっくりなキメラが描かれている絵画の存在を知り、シーゲルはとある芸術家の名前に

いきあたる。

その芸術家は絵画のモチーフをそっくり現実世界で再現し、写真に収めることを信条としていたのだ。

キャサリンも絵画のために作られた存在に違いない。

そう確信したシーゲルだが、自身も襲われ全身整形を施され、キャサリンと共に絵画のモデルとなるのだった。

④道徳的ウイルス科学者

同性愛や浮気が許せないショウクロスは間違いを犯した人間を罰するためにウイルスを作り出した。

そのウイルスは血や粘液に入りこみ、パートナーが変わったり、同性間の接触が行われると死に至るというものだった。

同性愛、浮気をした者を罰するそのウイルスは、瞬く間に世界に広まり、ショウクロスの目論見は達せたかに思えた。

しかし、ウイルスをばら撒くための旅先で、娼婦にショウクロスは指摘を受ける。

「母乳を飲んでいる赤ちゃんはどうなるの?」

自分の作成したウイルスで罪のない赤ん坊が世界で死んでいっていると気づき、ショウクロスは発狂した。

⑤移相夢

ロボットに脳を移送し、事実上の不老不死になれる技術が完成した未来。

男は明日、脳の移送を行うが、その事前説明で移相夢を教えられる。

脳が移送されている間、脳が何かの夢を見る、そしてその夢は目覚めたときには忘れてしまい、

本人にも、技術者にも誰にも分らないのだという。

男は移相夢の存在が気味が悪くて仕方なくなる。

落ち着かない気持ちで夜を迎え、出かけたところで事故に遭ってしまう。

目覚めたのはどうやら病院の中。

しかし看護師の様子もおかしく、これが現実なのか、夢なのか、はたまた移相夢なのかもわからない。

男は、自分の意識とはなんだろう、ロボットの中で目覚めるという自分の意識とは?

混乱の中で意識は混濁した。

⑥チェルノブイリの聖母

ファブリージョは運搬途中で紛失した小さな聖母絵を探してほしいと依頼される。

そう高価でもない美術品だが、運搬途中で配達人が殺され、行方不明になってしまったのだ。

殺された配達人の行方を追ううちに、配達人に同行者がいたこと、無理矢理従わされていたのではないことが判明する。

なぜ聖母絵は狙われたのか?

SF的技術を駆使して探偵は行方を追っていくのだった。

⑦ボーダー・ガード

不死が実現した世界で、ジャミルは久しぶりに外出をした。

散歩の途中に友人たちが量子サッカーの試合をしていたので飛び入り参加することにしたジャミルは、

そこで不思議な女性、マルジットと出会う。

彼女は量子サッカーとの試合だけに参加し、その後の食事や飲み会は常に帰ってしまうのだという。

興味を持ったジャミルはマルジットに近づくが、彼女が大きな悲しみを抱えていることに気づく。

彼女は不死が実現する前の時代から生きている人間で、最愛の友人と死に別れた記憶に今も苦しんでいた。

マルジットを放っておけないジャミルは、彼女の苦しみを分かち合おうと友人たちと話し合い、

彼女とより深い親交を結んでいくのだった。

⑧血をわけた姉妹

双子の姉妹ポーラとカレンは遺伝子性の病気にかかってしまう。

違う国で違う人生を送っていた二人だが、治療法の確立されていない同じ病気に苦しむことになる。

ポーラとカレンは同じ薬を飲むことになり、やがてカレンは薬が効き、病気が完治する。

ポーラに連絡を取ろうとするカレンだが、ポーラは死んでしまったと知る。

同じ薬を飲んだはずなのに、なぜ?

カレンが調べていくと、二人が飲んだ薬は臨床試験中にあり、一定割合で偽薬が投与されることを知った。

カレンは幼き日のポーラの悪ふざけを思い出していた。

二人がどんな時も運命を共にするようにと儀式めいた誓いをしたことがあった。

二人は死別し運命を共にすることはなかった。

2.グレッグ・イーガンの受賞歴

グレッグ・イーガンは故郷であるオーストラリアの大学で数学を修め、病院でプログラマーとして働くなど、

理系学問に造形が深い人です。

幼少のころより、科学に興味を持つ一方で、本を書いたり映画を作ったりすることにも憧れていたそうで、

彼の現在のSF小説家としてのキャリアは小さいころからの積み重ねが実ったと言えそうですね。

そのグレッグ・イーガンのSF賞のノミネート・受賞歴は華々しく、こうして一つ見出しを設けてご紹介できるほどの量です(笑)

それでは、以下に受賞歴をあげていきましょう。

<ノミネートのみ>

ヒューゴー賞 中長編小説部門 (@ワールドコン)

  • 『繭』(1995年)
  • 『ルミナス』『TAP』(1996年)
  • 『プランク・ダイブ』(1999年)
  • 『ボーダー・ガード』(2000年) ←『しあわせの理由』に収録!
  • 『オラクル』(2001年)
  • 『暗黒整数』、『グローリー』(2008年)

ディトマー賞 短編部門(@オーストラリア)

  • 『散骨』(1989年)
  • 愛撫』(1991年) ←『しあわせの理由』に収録!
  • 『Worthless』(1993年)
  • 『チェルノブイリの聖母』(1995年) ←『しあわせの理由』に収録!
  • 『しあわせの理由』(1998年) ←『しあわせの理由』に収録!

<受賞>

ヒューゴー賞 中長編小説部門 (@ワールドコン)  
           『祈りの海』(1999年)

ディトマー賞 短編部門 (@オーストラリア) 
           『ふたりの距離』(1993年)
           『繭』(1995年)

ディトマー賞 長編部門(@オーストラリア)
           『宇宙消失』(1993年)
           『順列都市』(1995年)
           『Teranesia』(2000年) 受賞後辞退している

ジョン・W・キャンベル記念賞 (@アメリカ) 
           『順列都市』(1995年)

ローカス賞 中長編部門 (@アメリカ)
           『祈りの海』(1999年)

ローカス賞 中編部門 (@アメリカ)
           『プランク・ダイブ』(1999年)
           『ボーダー・ガード』(2000年) ←『しあわせの理由』に収録!

星雲賞 海外短編部門 (@日本)
           『祈りの海』(2001年)
           『しあわせの理由』(2002年) ←『しあわせの理由』に収録!
           『ルミナス』(2003年)
           『暗黒整数』(2010年)

星雲賞 海外長編部門 (@日本)
           『万物理論』(2005年)
           『ディアスポラ』(2006年)

3.SF賞紹介

グレッグ・イーガンの受賞・ノミネート歴、輝かしいですね。

出身国のオーストラリアにとどまらず、世界中で愛されていることが分かります。

でも、私はよく思うんですが、

そもそも、文学賞がありすぎて特徴も権威もよくわからない!

日本では芥川賞、直木賞がすごい、っていうのは認知度の高さから言っても間違いないですが、

一時期に比べて減ったとはいえ、まだまだ数多の文学賞がありますよね。

ましてや海外の文学賞となると、ノーベル賞くらいしか聞いたことがない、という方が多いと思います。

そこで、このブログでもちょいちょい文学賞を紹介していこうと思います。

今回はグレッグ・イーガンの受賞した賞を紹介します。

ヒューゴー賞

ワールドコン(世界SF大会)で発表されるのがヒューゴー賞です。

創設されたのは1953年。

ヒューゴーの名前は、H.G.ウェルズ、ジュール・ヴェルヌらと並んでSF界の父として知られる

ヒューゴー・ガーンズバックの名に由来しています。

SF・ファンタジー作品が主な対象で、小説部門に限らず、映像や雑誌部門もあったりします。

SF・ファンタジー作品に授与される文学賞としてはネビュラ賞と並んで知名度・権威がある賞です。

ワールドコンは毎年世界のどこかの国で開催されており、開催国サイトにて参加者を募っています。

サイトに登録すると、その年のヒューゴー賞への投票権と、翌年のワールドコンの予選の投票権を獲得できます。

一般人でも参加できるようなので、興味のある方はワールドコンサイトを覘いてみてくださいね。

ディトマー賞

オーストラリア版ワールドコン(通称:The Natcon)で発表される主にオーストラリア国内の

SF小説やアート作品を対象にした賞です。

ヒューゴー賞によく似ていますが、国際的に作品を募るヒューゴー賞とは違い、国内の作品が優先されるようです。

賞の名は Martin James Ditmar ”Dick” Jenssen から取られており、

彼はオーストアラリアの気象予報システムの開発などに携わる科学者であった一方、SF作品も好み、

Natconとディトマー賞の設立に貢献した人物だそうです。

ジョン・W・キャンベル賞

英語で出版されたSF長編作品を対象にした文学賞です。

名前はSFの黄金時代を築いたと言われる編集者の名前に由来しています。

1973年にSF作家であるハリイ・ハリスンとブライアン・オールディスによって創設されました。

本賞と同時に発表・受賞されるSF短編作品を対象にした文学賞にシオドア・スタージョン記念賞があります。

毎年受賞作品が発表されていますが(1994年は除く)、邦訳されている作品は意外に少ないです。

ローカス賞

英語圏で発表されたSF・ファンタジー作品が対象です。

1968年より創刊されたSF雑誌『ローカス』が主催しています。

1971年に当時『ローカス』の編集者だったチャーリー・ブラウンが創設しました。

雑誌の『ローカス』の由来も調べてみましたが、拙い調査技術では詳細不明でした、すみません。。。

英語のlocusには遺伝子座(遺伝子の位置)、数学用語として軌跡、などの意味があるそうです。

『ローカス』読者の一般投票も受け付けているようですよ。

星雲賞

日本SF大会が主催の文学、コミック、映像などを対象にしたSF賞です。

1970年創設で日本で一番最初にできました。

名前は1954年創刊のSF雑誌『星雲』から取られています。

受賞作品を見ていて一つびっくりしたのですが、『カードキャプターさくら』がコミック部門で

2001年に受賞していました。

SFの定義って広いんですね。

いかがでしたでしょうか。

作品自体も楽しいですが、文学賞に詳しくなると通っぽくなってさらに読書が面白くなると思います。

文学賞の好みの傾向ははっきりしていますので、好きな作品が見つかったら、受賞作品を読んでいってみると

お気に入りが見つかりやすいですよ。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!

よろしければ感想など、残していってくださいね。

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