面白い、けど少しモヤる……(碆霊の如き祀るもの)読書感想

元ライターが作家目線で読書する当ブログへようこそ!

今回ご紹介する本はこちら↓

碆霊の如き祀るもの  三津田信三  講談社文庫

刀城言耶(とうじょうげんや)シリーズの長編7作目で、

『はえだまのごときまつるもの』と読みます。

シリーズの特徴である、戦後間もない日本の田舎町で起こる、

怪奇現象と殺人事件を組み合わせた独特のホラーミステリな世界観を、

本作でも披露してくれています。

横溝正史大好きな私にとって、現代においても似た世界観の作品を

出版し続けてくれている本シリーズは毎回楽しみにしています。

本作もワクワクとしながら手に取ったのです、が。

敢えて言いましょう。

ちょっと今回は期待値スレスレの内容だったかなー……という感じです。

その理由を考えてみると、逆に、今まで本シリーズが提供してきた作品群の

クオリティの高さがよく分かる結果となりました。

ここは既に刊行の決まっている次作(の文庫化)に期待! しつつ、

本作の内容を、私の感じたモヤモヤ感の理由と共に、ご紹介していきましょう。

目次 1.面白い、けど……!
   2.あらすじと反省

1.面白い、けど……!

まずは、もし刀城言耶シリーズの中で『碆霊の如く祀るもの』が

初めて読んだ、という方のために、少し本シリーズの特徴を

おさらいしておきましょう。

冒頭にもちらりと書きましたが、本シリーズは戦後しばらく経ったころ、

まだまだ日本の田舎には謎多き風習や怪奇現象の数々が

生き残っていた時代が舞台となっています。

主人公は刀城言耶(とうじょうげんや)、作家 兼 民俗採訪家で、

田舎を巡り歩いてはその地方の不思議な話や怪談を嬉々として集め回っている、

ちょっと変わった趣味を持った若き男性です。

彼は行く先々で怪奇現象にも思える不思議な殺人事件にでくわし、

その気もないのに巻き込まれて探偵の如く活躍してしまうという、

おいしい役どころの人でもあります。

しかしこの言耶、金田一耕助のように謎を一発で解き明かす、という

名探偵ではありません。

この辺りがシリーズの際立った特徴になるのですが、

推理するにあたって

 ・謎を何十個も列挙して書きだす癖がある。

 ・謎の中には、怪奇現象がどうして起こったのか、という一見事件には無関係の謎も含まれる。

 ・推理を披露する時、自分の思考をたどるようにしか話せないらしく、推理の内容が2転、3転するのは当たり前。

 ・事件の解決には、怪奇現象と思われたことの原因を解き明かすことが含まれる。

これらのお約束はシリーズ初期から忠実に守られています。

特に、推理の内容がコロコロ変わっていくのはシリーズを支えている面白さの柱で、

どの推理も本命でおかしくないほどの切れ味鋭い謎解きになっているんです。

「よくもまあ、こんなに一つの事件に対してトリックをいくつも思いつくこと!」と

毎度感心して読んでいます。

本作でもその鮮やかな謎解きは健在で、ワクワクと読んでいました。

そう、シリーズのファンでも、初めて読んだ方でも、

それなりに面白く読める、そのラインはクリアしているのです。

しかし、どうにも私は消化不良な感覚が読み終わった後に残りました。

それにはちゃんと理由があったのです。

理由その1 謎を列挙したとき、少しご都合主義

言耶が謎解きに本腰を入れ出したとき、70個もの項目をあげて、

本作中に散りばめられた謎を列挙しています。

しかし、「あれ? 抜けてるのがある…」というのが

読んだときの率直な感想でした。

例えば、蓬莱さんという、作中で重要な役割を果たす人物がいますが、

この蓬莱さんも不思議な存在なんです。

いつからか村の物見やぐらの掘っ立て小屋に住み着いた浮浪者でしたが、

素性不明なその人を村人たちは 蓬莱さん と呼び始め、親切に接するようになります。

しかし、その蓬莱さんが亡くなると、また新しい別人が

いつの間にか海からやってきて、蓬莱さんとして同じ場所に住み着いてしまう、

ということが村では何度も続けて起こっているんです。

……これも怪奇現象の一つかと思うくらい、変な話ですよね。

しかし、言耶のメモにはこの謎は登場しません。

最後の謎解きに関係してくる謎以外は、項目の中から排除されています。

必要ないモノは削る、は文章の基本なので、当然といえば当然なのですが…

一応、蓬莱さんの正体が誰か、というのは作中ちょろっと語られますが、

それで次々にやってくる蓬莱さんの謎が解けたわけでもなく……

妙に気になるだけで推理のミスディレクションですらないんですよね。

うーん、何故こんな変な設定をいれたのか、ちょっとモヤモヤする。

理由その2 動機が弱い

殺人事件が起こっているので、その動機も大事になってくるわけなのですが、

その動機がいまいち説得力に欠けます。

「え? 本当にそれが理由で殺人したの?」

というのが本音でした。

少しネタバレしますと、昔、行われていた村ぐるみの犯罪行為を隠し通すために、

勘づいたよそ者を殺す、という動機が出てくるんですが、

「その昔っていつの話?」というのが正直な感想でした。

昔の村人たちがしていた犯罪なんて立証しようもないですしね……

村に生き残っているのは子孫たちで、自分たちの犯罪行為でもないものを、

別の犯罪を犯してまで隠しますか? という、一般的な感覚からは

少し理解できない動機でした。

理由その3 ヒロインの扱いが雑

このシリーズにも影が薄いながらヒロインがいます。

祖父江偲という若き女性編集者で、言耶の担当をしています。

彼女、才色兼備で言耶からの信頼も厚い、しっかり者、

とかなり盛られた設定をしているのですが、

これまではちょい役ばかりだったんです。

しかし、今回は作中ずっと言耶のそばにいるお話だったので、

「これはヒロインと言耶の仲も少し進むのでは!?」と

私はものすごく期待してしまったのですが……

残念ながら、そんな桃色の展開はまったくありませんでした。

それどころか、偲さん、ずいぶんと残念な描写のされ方をしているな、と

少し悲しくなったくらいです。

言耶の旅に編集者としてくっついてくるのですが、

過酷な旅になるよ、と事前に知らされていたにも関わらず

道中、文句言いまくりのバテまくり。

言動は騒がしいばかりで、設定の才色兼備さは感じられません。

一応、彼女は言耶を憎からず思っている、という様子はうかがえるのですが、

偲に対する言耶の振る舞いは、思いやりに欠けているし、

むしろ厄介者扱いしていて、「言耶は偲のこと、うざいと思ってるよね…?」

と疑ってしまいました。

せっかく全編登場させたんだから「もうちょっと……! 萌えさせてくれもよかったのでは!?」

と一人、悶々としておりました。

2.あらすじと反省

少し不満を吐き出し終えたところで、『碆霊の如く祀るもの』の

内容をご紹介しておきましょう。

今回の舞台は険しい山と、海に囲まれた地方が舞台です。

物流が悪く、せっかくの海も漁業には向かず、貧しい4つの村があり、

時代を変えて、4つの怪奇現象が伝わっています。

1つ目が海に現れるという亡者。

2つ目が物見やぐらに現れる化け物。

3つ目が村に近い竹林の中の祠にいる人を飢えさせる化け物。

4つ目が、村々と外界を繋ぐ道路沿いに現れる謎のお化けと、食中毒などの事件。

4つ目だけは作中、現在進行形で発生したとされています。

言耶は4つの謎に惹かれて、険しい山道を越えてはるばるやってくるのですが、

村に着くと、すぐに事件が発生します。

3番目の怪異の舞台である竹林の祠で、餓死した死体が発見されるのです。

祠から外へ出る通路はちゃんとあったのに、何故餓死するまで祠のそばに

留まったのか? これは殺人なのか?

謎が解けないまま、今度は物見やぐらの上から転落した人物がいると、

目撃証言が出ます。

物見やぐらの上には犠牲者しかいなかったはず、しかしこれも

事故なのか、殺人なのか、曖昧なまま、第三の事件が発生します。

第三の事件ははっきりと他殺体で発見されるも、

死体の周りには被害者の足跡しかなく、犯人のものは見当たりません。

そして、最後に首つり死体が密室のなかで発見されます。

わずか数日のうちに、4件もの人死にが起こり、そのすべてが

殺人だとすると密室状態で行われたことになり、

なおかつ村に伝わる怪異にまつわる場所で起こったという

薄気味悪さと謎めいた雰囲気漂う、内容になっています。

最後には言耶が迷走しながらも、真相には辿り着くのですが……

ラストの後味の悪さも醍醐味なので、読んでみてのお楽しみですね。

あらすじを読むと、面白そう! と思われましたか?

そう、本作は面白いんです。

いろいろ書きましたが、ちゃんと面白い。

しかし、刀城言耶シリーズの他の作品は、「もっと面白い」んです。

特にシリーズ第1作目の 『厭魅の如き憑くもの』はすごかった…!

2回読んでも面白かったです。記憶を消してもう一度読みたいくらいです。

2作目長編の『凶鳥の如き忌むもの』も「そうきたかー!」と

唸らされましたし……

どうやら、シリーズのクオリティが高いために、少し期待値が高くなり過ぎた、

それが私の消化不良の一番の原因ではないかと思います。

これが仮に、三津田信三先生の作品でなかったら、

普通に面白かった、という感想になっていた気がします。

贅沢な読者もいたもんですね……と反省。

シリーズも長く続くと、こういうこともあります。

しかし、10作目にシリーズ最高傑作きた!! となることも

多々ありますので、また次回作、読んでいきたいと思います……!


いかがでしたでしょうか?

『碆霊の如く祀るもの』から刀城言耶シリーズを読み始めた方は、

ぜひ1作目の『厭魅の如き憑くもの』を読んでいただきたいと思います。

2転、3転していく言耶の推理がどれもレベルが高いですし、

最後の真相も衝撃的です。

本当にすごい、と胸をはってお薦めできます。

書いていたらまた読みたくなってきました。

ぜひ、手に取って見てくださいね。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

よろしければ、感想など、コメントに残していってくださいね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。