本当にティーンエイジャー向け?(失われたものたちの本、ジョン・コナリー)読書感想

元ライターが作家目線で読書する当ブログへようこそ!

今回ご紹介する本はこちら↓

失われたものたちの本 ジョン・コナリー 創元推理文庫

本屋さんに平積みされてあった本で、帯に記されていた

紹介文に惹かれて買いました。

『宮崎駿氏推薦
 ぼくを幸せにしてくれ本です。
 出会えてほんとうに良かったと思ってます。』

『全米図書館協会アレックス賞受賞作』

いい本との出会いが期待できる紹介文ですよね。

そして実際に読んでみての感想はというと……

これは読む人を選ぶ本だ、というものでした。

本のあらすじはこの記事の末尾に記載していますので

そちらで詳細は確認してください。

それでは、正直な感想とともに、本書をご紹介していきます。

注:これ以降ネタバレありです!

 目次 1.作品の内容と文章力のギャップ
    2.アレックス賞についてのあれこれ
    3.あらすじ

1.作品の内容と文章力のギャップ

冒頭に、この本を読んだ感想を

これは読む人を選ぶ本だ、と書きましたが、

もっと正直に言えば、私には 不快 の一言でした。

作品に対して厳しい感想を書くのは、

私にしては珍しいことなんですが……

しっかりとそう思った理由を書きたいと思います。

本書の内容はティーンエイジャー向けで、

母を亡くした少年が、傷ついて

異世界へ逃げ出し、そこで様々な試練に遭い、

成長して元の世界にもどるという王道ファンタジーです。

第二次世界大戦中のロンドン郊外を舞台にした物語なので

現実世界も死と隣り合わせなんですが、

少年が逃げ込んだ異世界も王が権威を失い、

不気味な化け物たちが人々の血肉を狙い、

飢えた人狼たちが玉座を狙い勢力を拡大しつつあるという、

負けず劣らず弱肉強食な残酷な世界として描かれています。

ですからハリーポッターのようなワクワクドキドキできる

ファンタジーではありません。

しかし、残酷な世界観が私を不快にさせたわけではありません。

この話から読み取れる作者の思想が私には馴染めなかったのです。

まず、この話のテーマなんですが、一言で言うと 通過儀礼、

大人になるための試練の物語なんです。

それ自体はよくありますが、その表現方法がひどい。

主人公である少年は母を亡くして傷心しているのですが、

その母親を不吉なイメージとして使い倒しています。

残酷な異世界へ招き入れるために母親の声を使ったり、

恐ろしく立ち向かうべき敵の顔が継母の姿をしていたり……

息子を持つ母親としては文句の一つもつけたくなるというものです。

それだけでなく、少年が異世界で最初に出会う頼りになる大人が

いるのですが、最後の方で、彼の容姿が父親そっくりだと明かされます。

父と母でなんという扱いの差でしょう。

作者の意図していたところが、少年期から青年期へ変わるときに

起こる性への戸惑いを表現するために、異性である母親を

不吉なイメージとして使用しているのだとしても、

作者の男女差に対する意識が透けて見えるようです。

また、物語中盤から登場する重要人物に課せられた個性もいただけない。

ローランドという、立派な騎士の青年が、主人公の少年を導き、

彼の手本となるような存在として描かれるのですが、

彼は親友を愛す同性愛者とされています。

それ自体はいいんですが、なぜ? あえて同性愛者という設定にしたのか、

私はすごく気になりました。

話の筋からして、別にローランドが愛すのは女性でも男性でも

構わなかったはずです。

そこには明確に、なにか作者側の理由があるはずだと

私は考えました。

そして辿り着いたのが、もしかしてローランドを

主人公が超えるべき少し不完全な男性として

描こうとしたのではないか、というものでした。

これが当たっているなら腹正しい話です。

ティーンエイジャー向けに書く内容として相応しくないですし、

少なくとも蔑視思想を持つ作家の作品を

思春期の子供には読ませたくありません。

他に解釈の仕方があるなら

この不快感を打ち消したいので、教えてほしいです。

物語の舞台が戦時中なので、もしかしたら相当昔の作品なのかな?

と救いを求めましたが、作品発表は2006年。最近でした。

時代考証を組み込んだのだという言い訳があるのかもしれませんが、

もうちょっと、読者にどう読まれるのか、

可能性の幅を広く考えるべきだったのでは? と思います。

以上のように、話が描こうとしているテーマや

世界観から作者の前時代的な差別意識が伝わってきて、

私の読後感は最悪でした。

帯には「幸せにしてくれた」なんてコメントが寄せられていましたが、

果たしてどの部分でそう思ったのか、私には全く理解できませんでした。

ではなぜ、あえてブログで採り上げたのか、と思われる方も

いらっしゃるでしょう。

それがこの本の扱いの難しいところで、

テーマや世界観は嫌いでも、

作者の文章力、構成力、テクニックは優れていると

言わざるを得ないのです。

本書の内容は残酷で、嫌悪感を抱かせる描写も多分に

含まれていますが、

それでも読み進められるのは、

次が気になるように章末に読者の好奇心を煽る一文を

欠かさず入れるテクニックがしっかり使われているからです。

そして文章力も素晴らしい。

後半に少年とローランドがちょっとしたことから

仲たがいしかけるシーンがありますが、

そこで仲直りさせるための描写は秀逸でした。

少年の感情はあえてほとんど省き、

ローランドに少年への思いを語らせます。

少年が勇敢だと思っていること。

少年が絶望にも打ち勝つ強い心を持っていると思っていること。

最初は足手まといになるかと思ったが、今では信頼も尊敬もしていること。

仲直りの合図は手を取りあうことと、少年の「ごめん」の一言です。

それでも十分に少年の心の動きが伝わってくる鮮やかな筆力でした。

私のこの作品に対してももう一つの評価はアンバランスです。

もっと楽しいテーマの作品で出会いたかった作者です。

作者の力量があるだけに、テーマや世界観が必要以上に

伝わって、残念な相乗効果をあげたのかもしれません。

2.アレックス賞についてのあれこれ

あらすじに行く前に、この作品が受賞した『アレックス賞』について

少し補足しておきましょう。

アレックス賞の概要は

『12歳から18歳のヤングアダルトに特にお薦めしたい大人向けの本10冊』

とのことで、1年に1度、受賞作品が選ばれます。

私が知っている受賞作品は

2006年 カズオ・イシグロ 『わたしを離さないで』

2015年 湊かなえ 『告白』

どちらも読みましたが、あえて思春期の子供に読ませたいと思うか

と言われれば 『?』はてなマークを付けざるを得ないです。

アレックス賞のサイトも覗いてみましたが、

ヤングアダルト世代の興味をひくアピール力を持つ作品に与えられる賞、

というくらいで、選考基準も明確には記されてはいませんでした。

大人目線で選んでいるのではなく、あくまでヤングアダルト世代にとって

面白い作品かどうか、が重要視されているのかもしれません。

だとしたら、受賞作品のタイトルにも納得です。

米国で選考されている賞なので、日本とは感覚が違うのかもしれませんが……

ティーンエイジャー向けの賞をもらっているからと言って

安心して子供に読ませられる本ばかりではない、というのは

親目線からするとけっこう衝撃でした^^;

3.あらすじ

デイヴィッドの母親が死んでしまった。

母の死からしばらくしてデイヴィッドは父の新しい恋人、

ローズを紹介される。デイヴィッドは彼女が嫌だった。

やがてローズが妊娠し、父親は再婚し、弟ジョージーが生まれた。

デイヴィッドはロンドンから郊外へ引っ越し、屋根裏部屋を与えられる。

そこにはジョナサンという人の本がたくさん残されていた。

デイヴィッドはジョナサンの正体が気になり、思い切ってローズに聞いてみた。

ジョナサンはローズ伯父で、14歳のころ、

アンナという、7歳の女の子といなくなってしまったのだと言う。

デイヴィッドの部屋からは庭が見え、そこから時折母親の声が聞こえてくるようになった。

デイヴィッドはローズと大喧嘩をし、父からも叱られてしまう。

家が、父が、ローズが、弟ジョージ―がたまらなく嫌になり、

また庭から母の声が聞こえてきた。

デイヴィッドは誘われるがまま、庭のすきまから異世界へと入り込んでしまう。

デイヴィッドは異世界で木こりにであった。

木こりは襲ってきた狼たちと、そのリーダーである人狼、リロイから

デイヴィッドを守り、異世界の現状を話してくれる。

王様の力が弱まり、人狼をはじめとした不気味な化け物たちが

力を強めているのだという。

デイヴィッドが元の世界へ戻れるように木こりと一緒に旅に出る。

元の世界へ戻るには、王様に会い「失われたものたちの本」を

読めばいいという。

木こりたちは城へ行くまでの道にある大きな地面の裂け目にやってきた。

空飛ぶハルピュイア、崖の下から獲物を狙うトロイがデイヴィッドたちを狙う。

そこにリロイたちも追ってきて、木こりを犠牲にして、

デイヴィッドは苦難を乗り越える。

一人森に迷い込んでデイヴィッドは

小人たちを虐める白雪姫や、

子供と動物を合成してもとあそぶ女狩人など、

数々の危険に遭遇するが、機転をきかして生き延びる。

デイヴィッドはローランドという兵士に出会う。

ローランドは親友を探す旅の途中だった。

ローランドと共に旅することになったデイヴィッドだが、

不思議な老人、ねじくれ男に出会う。

老人は、デイヴィッドがいなくなった後も平和に暮らす家族の姿を見せ、

お前に帰る場所はないのだと脅しをかける。

デイヴィッドとローランドは、ローランドの親友が最後に向かった

イバラの城に近い街に立ち寄る。

そこで村人を全滅させる力を持つ巨大な化け物を討ち取ることに成功する。

ローランドとイバラの城に向かうデイヴィッドの前に、再びねじくれ男が現れ、

弟の名前を教えてくれれば、元の世界に戻してやるとそそのかされる。

デイヴィッドはローランドが一人で入っていったイバラの城の前で、

再び母が自分を呼ぶ声を聞く。

ローランドを助けるためにも城の中へとはいるデイヴィッドだが、

母の声は罠で、ローランドとその親友を殺した化け物が待っていた。

デイヴィッドはその化け物を一人で討ち取り、一人王のいる城へと向かう。

その跡をリロイたちは執念深く追ってきており、デイヴィッドと王を殺して

自分が王になろうとリロイは企んでいた。

王に会ったデイヴィッド、自分が次の王として求められていることを知る。

しかし、デイヴィッドは王とねじくれ男が繋がっていることを知る。

デイヴィッドは現在の王が行方不明になったジョナサンであり、

ねじくれ男がまだ子供のジョナサンをこの世界へ連れてきたこと、

妹のアンナを生贄にさせてジョナサンを異世界の王にしたこと、

ねじくれ男はそうしてアンナの命を奪い、裏から王国を操っていることを知った。

ねじくれ男の次なる生贄はデイヴィッドとジョージ―です。

デイヴィッドはねじくれ男にジョージ―を生贄にしろと迫りますが、

異世界での旅を生き抜き、全てを知ったデイヴィッドははねのける。

そこへ王を殺しに来たリロイが現れ、城の兵士たちと狼たちとの乱戦になる。

リロイが王を殺し、ねじくれ男にも同時に寿命が訪れますが、

元々王の悪夢から生れ出たリロイも死んでしまい、

王国に平和が訪れました。

デイヴィッドは実は生きていた木こりに連れられ、元の世界へと戻り、

ローズ、父、ジョージ―と再会し、それからは家族に思いやりを

持って接し、良き子供、良き兄としての生活が始まる。

しかし人生は残酷で、父と弟を早くに亡くし、

妻子も出産のおりに亡くし、

デイヴィッドは唯一生き残った家族ローズの面倒をみて

一生を終えます。

死後、彼が迎え入れられたのは昔旅した異世界。

そこでデイヴィッドは再び暮らすこととなるのだった。

以上が本筋に関係するあらすじですが、本書の見どころ(?)の

一つに、童話をリメイクした話が登場人物たちによって語られる

というのがあります。

例えば、木こりがデイヴィッドに昔話として語って聞かせてやる話の一つに

赤ずきんちゃんの話があります。

普通の童話では狼は赤ずきんちゃんを食べてしまいますが、

木こりが語った昔話では、赤ずきんちゃんが狼に恋をして、

生まれてきた子供が最初の人狼であり、リロイの正体であると

されているのです。

他にもヘンゼルとグレーテルや眠れる森の美女、白雪姫など

有名な童話作品が悪夢じみたリメイクをされていますので、

『本当は怖いグリム童話』のような感覚で読めますよ。


いかがでしたでしょうか?

本を売るために帯には誇大広告ともいえる文章が使われ、

読んだ後で「帯に騙された……」と思うのは読書家あるあるだと

思うのですが、本書は騙され度合いが個人的には特にひどかったです。

辛口の感想に、逆に興味を持たれた方で、自分でも読んでみたと

いう方がいらっしゃれば、ぜひ感想を教えていただきたいと思います。

もしかしたら私の考えが偏っていて、もっといい読み方がある本なのかも

しれません。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!

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