読書感想|樹々の奥深い世界へ誘われます、樹木たちの知られざる生活(ペーター・ヴォールレーベン)
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樹木たちの知られざる生活 ペーター・ヴォールレーベン 早川書房
このブログを書いている時分、ちょうど花粉シーズンの始まりの時期です。
日本の国民病ともいわれる花粉症の、主たる原因となっているのがスギの花粉です。
毎年、杉の木から大量に噴射される花粉の光景にぞっとされる方も多いのではないでしょうか。
杉林なんて早く切り倒せばいいのに……と思っている方も多々いらっしゃることでしょう、私もその一人です。
注:私もスギ花粉症の一人です。
しかし、今回ご紹介する本を読めば、樹への理解が出て、愛着が増し、少しは気持ちが楽になる…かもしれませんよ。
それでは、本の内容をご紹介していきますね。
本書はドイツ生まれで 林業大好きなペーター・ヴォールレーベンによるものです。
著者がどれくらい林業を愛しているか、経歴を知るとよくわかります。
大学時に林業を専攻、その後何十年にも渡って森林管理を続け、何十年も林業一筋で生きてきた方なんですね。
彼が愛する樹の本、つまり本書を書くきっかけは、最初に就いた公務員の時期に遡ります。
洲営林署の要職を務めていた彼が見た官営による林業は、人間本位の営林法だったと言います。
本来その樹木が育つ環境ではない土地に植え、害虫駆除を行い、まだ寿命が始まったばかりの若い樹を次々と切り倒し運び去る……
そんな営林法に疑問を感じ続けた著者は、官営の営林法に見切りをつけ、思い切って独立を決意します。
自治体から独自に契約を受け、個人事業主として森林管理を行うことにしたのです。
彼の営林法の理想は、森林の生態に沿った管理を行うこと。
現在はその理想に賛同した複数の自治体からオファーを受けているそうです。
森林への愛と信念を貫いたことにより、著者は人生の安定と収入まで放り出したのですが、おかげで公務員時代には書けなかった、本書が生まれたわけです。
林業一筋といっても、その管理方法は公務員時代と独立後では180度違いますからね。
本書を読むと、公務員時代の人間本位の営林法に否定的な著者の立場がはっきりとわかります。
営林法の違いによる森林の差だけも目からウロコが出る内容なのですが、本書のメイン、林業を通して知った樹木の生態にはさらに驚くべきことが多々書かれています。
例えば、森林の樹々は会話をしているらしいです。
その会話の内容は、こっちの樹には栄養が足りないから分け与えてあげよう、であったり、あっちの樹には虫がたかりはじめているらしいぞといった警告だったりと、生き抜くために必要な情報交換を行っているそうなんです。
一本一本、孤独に立っているのかと思えた樹は、実はお互いに情報交換をして、森林全体で生き延びようとコミュニケーション網を築き上げているんですね。
もちろん、樹には発声器官がないので、動物のように鳴き声を発して会話しているわけではありません。
ではどうやって、樹々はコミュニケーションをとっているのでしょうか。
その秘密は地中にある根っこ。
地中に張り巡らされた根っこのネットワークによって、情報及び栄養の交換などが行われているそうなんです。
詳しい内容はぜひ本書を読んでいただきたいのですが、これだけでも、少し樹を見る目が変わりませんか?
そして私が読んだ中で衝撃を受けたのは、樹の中にも一匹狼的存在がおり、他の樹々のネットワークからは外れ、孤立している性格の樹もいるという内容です。
当然、その樹には他の樹々からの援助は行われません。
そうなると、生き残る確率も低くなるんだそうです。
ここでふと思いついたのが、街中で見かける植林事業です。
私の住んでいる地域でも、街路樹を一本だけ、歩道の脇に植えて、植樹セレモニーをやっていたりするのですが…
そうやって植樹される樹は、望もうと望むまいと、一匹狼にならざるを得ない運命になりますよね。
生きるのに必要な情報も得られず、もし病気になって光合成がうまくできなくなったときに助けてくれる樹も周りにはいません。
おそらく、街路樹の寿命は、樹としてはとても短くなってしまうのではないでしょうか?
植林することはいいことですが、樹の生態を理解していないと、空回りの事業として終わってしまうのかもしれませんね。
本書には他にも身近な樹の驚きの生態がたくさん書かれています。
樹はその寿命も人間を超えた長命を誇りますが、知性も人間の想像のはるか上をいっていることがよくわかりますよ。
読み終わると、思わず森に出かけたくなるのではないかと思います。
樹々が、どのような様子で立っているか、実際に確かめてみたくなりますよ。
いかがでしたでしょうか?
私はKindle版で読みましたが、文庫本も出版されています。
この本には続刊もあり、『動物たちの内なる生活 森林管理官が聴いた野生の声』も同じく早川書房から翻訳出版されているそうです。
こちらも面白そうですね。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。
よろしければコメントなど、残していってくださいね。