読書感想|しゃばけシリーズでも珍しい大ピンチ、『とるとだす』(畑中恵)
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『とるとだす』 畑中恵 新潮文庫
しゃばけシリーズの第17作目です。
主人公が毎度トラブル解決に首を突っ込んでしまうのがシリーズのお約束ですが、今回のは一味変わっています。
しゃばけシリーズは初投稿になりますので、シリーズ概要もしたいと思います。
それではこの後、ネタバレありです、ご注意ください。
目次
1.しゃばけシリーズとは
2.『とるとだす』おおまかなあらすじ
3.連作短編集はこう読んでます
1.しゃばけシリーズとは
シリーズ初作品にして、著者の小説家としてのデビュー作、『しゃばけ』から始まった大人気シリーズです。
現在870万部突破しているとか。
もう少しで1000万部に手が届きそうですね。
現在の出版不況からすると驚異的な数字です。
しゃばけシリーズは江戸時代の廻船問屋 兼 薬種問屋 の大店である長崎屋の一人息子・若旦那を主人公とした時代ものファンタジーです。
廻船問屋=流通業、薬種問屋=薬局、現代で言えばこんな感じでしょうか。
若旦那は家族経営の大会社の御曹司で、次期社長となるべく英才教育を受けている……のかと思えば、違います。
若旦那は生まれつき身体が超がつくほど弱く、しょっちゅう病を得ては死にかけている虚弱体質。
店を手伝いたい気持ちはあるけれど、月の半分は店の離れで床に就いている状態です。
そんな若旦那がいかにして主人公などという大役を務めているかというと、離れに住まう大勢の”妖怪”たちのおかげです。
長崎屋の手代(営業責任者くらいの意味でしょうか)である仁吉と佐助はそれぞれ白沢・犬神という大物妖怪で、この二人を筆頭に…
家鳴り、屏風のぞき、ねこまた、貧乏神、獏、鈴彦姫、化け狐…と、いるわいるわ、わんさと妖怪たちが住み着いているのです。
それもそのはず、若旦那は大物妖怪の孫にあたる血筋で、生まれつき妖怪たちとコミュニケーションがとれる能力の持ち主なのです。
若旦那は自分が思うように動けない替わりに、妖怪たちに情報収集してもらったりして、江戸に起こる不思議な事件を解決していきます。
アームチェアディテクティブ、という言葉があったかと思いますが、それに近いですね。
毎回、ご褒美のおやつを目当てに奮闘する妖怪たちの愛嬌ある姿が楽しい、ほんわかミステリーシリーズとなっています。
2.『とるとだす』おおまかなあらすじ
前項で「ほんわかミステリーシリーズ」と紹介しておきながら、今回ご紹介する『とるとだす』はシリーズの中でも少し異色です。
シリーズの定番は、離れに住まう若旦那のもとに妖怪や岡っ引きがちょっと不思議な事件を持ち込んで、若旦那がそれに首を突っ込んでいく、という流れが定番なのですが、本書の若旦那は冒頭から大ピンチに陥ります。
父であり長崎屋の店主でもある藤兵衛とともに、贔屓にしている寺に呼び出された若旦那ですが、そこに集まる同業の店主たちとの会話中、突然藤兵衛が倒れてしまいます。
藤兵衛が何故と倒れてしまったのか、『とるとだす』はその表題作から始まり、藤兵衛が倒れてしまった理由を若旦那が妖怪たちの手を借りながら解き明かします。
藤兵衛が倒れた理由は突き止めた若旦那ですが、そのまま病に臥せってしまう父。
このままでは長崎屋が潰れかねません。
いつものように不思議な事件だから真相が知りたい、などと興味本位なことを言っている場合ではありません。
若旦那は父を助けようと、毒を吐き出させるために枕返しを捜しに幻の島に渡ったり(『しんのいみ』)、珍しい薬を持参金替わりに娘を嫁入りさせようとする大店のばけねこつき騒動の解決に(『ばけねこつき』)と、奔走します。
その甲斐あって、藤兵衛の具合は少しずつ回復していきますが、そんな時に怨念の塊である狂骨に藤兵衛の命が狙われてしまいます(『長崎屋の主が死んだ』)。
どうにかこれを撃退し、神様からの願い事を聞き届け、藤兵衛の薬を頂き、若旦那は長崎屋の大ピンチを救うことができたのでした。(『ふろうふし』)
3.連作短編集はこう読んでます
しゃばけシリーズでは長編は2作品しかなく、あとは短編集となっています。
しかし、ただ脈絡のないお話を並べてあるわけではなく、一つの大きなストーリーで繋がった連作短編の形をとっているものがあります。
『とるとだす』はその一つです。
表題作であり、短編の一番最初の『とるとだす』で、本書全編を貫く問題=長崎屋の主・藤兵衛が病に臥せるが提示されます。
文章の基本、起承転結の起が示されたわけです。
これに対して、若旦那が何かしなければならないと、不確かな噂を信じて活躍するのが二番目の短編『しんのいみ』になります。
起承転結の承、ですね。
承のパートでは主人公は問題を解決すべく、手探りながらも動き出す部分が描かれるのがセオリーですので、『しんのいみ』は承のパートにふさわしい内容といえます。
三番目の『ばけねこつき』はちょっと全体の流れからすれば浮いているのですが、若旦那が薬を探しているという情報から起こった事件と考えれば、承のパートでいいと思います。
四番目の『長崎屋の主が死んだ』は、タイトルからしてドキッとさせますね。
内容も、なぜか藤兵衛の命を執拗に狙う狂骨という怨念の塊の妖怪が襲ってくるという、しゃばけシリーズでは珍しいおどろおどろしい話です。
若旦那は藤兵衛を守るため、積極的に狂骨の正体や長崎屋を狙う理由を探ることになります。
起承転結の転のパートでは、主人公が問題解決の手掛かりをつかみ、問題に対して反撃を繰り出す様子が描かれるセオリーからすると、『長崎屋の主が死んだ』は転のパートに当たりますね。
そして最後の『ふろうふし』では、藤兵衛の病を完全に消し去る薬を神様から貰い、長かった若旦那の問題もめでたく解決することになります。
もちろん、ただで得られるわけはないので、神様からのお願い事を叶える、という課題つきではありますが。
起承転結の結のパートは主人公による問題解決が描かれるので、『ふろうふし』はそのものズバリの内容ですね。
こんな感じで連作短編集であれば、それぞれのお話が起承転結のどの部分にあたるのか、どこでお話が切り替わるのか、考えながら読んだりしています。
そして、上手な作家さんになると、それぞれの短編の中でも起承転結がしっかりとつき、さらに短編の中の章の中でも起承転結がつき、章の中の文章の塊の中でも起承転結がつき…と入れ子細工のようになったりしています。
少し意識して読んでみると、案外面白いですよ。
文章の基本、起承転結は簡単なように思えますが、ちゃんと考えて書くのは難しい…といつも頭を悩まされます。
上手に起承転結を使えるようになるには、書くこと、そして読む時にも意識することが大切だと思います。
いかがでしたでしょうか?
読む時に常に考えて読まなくとも、このお話は面白い!と感じた作品があれば、読み終わった後で、起承転結を考えると、驚くほど型にハマっていると気づくと思います。
使いこなすには奥が深いテクニックですが…、それだけ文章を面白く感じさせる基本だということなんでしょうね。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!
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