読書感想|古典なのに現代的なヒロイン(マノン・レスコー、アベ・プレヴォ)

元ライターが作家目線で読書する当ブログへようこそ!

今回ご紹介するのはこちら↓

マノン・レスコー アベ・プレヴォ 岩波文庫

18世紀、フランスで生まれた作品です。

物語の舞台も中心はパリです。

実は、読んでいてあまり楽しい気分になる作品ではないのですが……

ヒロインでありタイトルにもなっている ”マノン・レスコー” の

キャラクター造成が面白いなと思ったのでご紹介することにしました。

あらすじ、ヒロインの性格、そして作者であるアベ・プレヴォの

人生についても触れようと思います。

それではまずあらすじから。

貴族の青年シュヴァリエは絶世の美女マノンに出会う。

一瞬で惹かれあった彼らは駆け落ちするが、すぐに金欠になってしまう。

シュヴァリエは実家に連れ戻され、マノンと引き裂かれてしまう。

悲しみに暮れるシュヴァリエだが、マノンは彼と一緒に暮らしていた頃から、

すでに金持ちの男にその身を任せてお金を得ていたと聞き、

シュヴァリエは絶望する。

父や兄、親友のチベルジュの手によって、彼は元の生活に戻るが

マノンと再会してしまい、また彼女との愛に生きるようになる。

金を稼ぐためにシュヴァリエは詐欺を覚えるが、

有り金を使用人に盗まれてしまう。

貧乏になりたくないマノンは、兄に金持ちの男を紹介され、

ついていってしまうが、シュヴァリエは彼女を諦められず、

連れ戻しに行き、金品を奪って逃げようとする。

しかし捕まってしまった2人は矯正院に入れられ、

離れ離れにされてしまう。

なんとかマノンを取り戻したいシュヴァリエはマノンの兄の力を

借りて脱獄するが、その際に殺人まで犯してしまう。

マノンを取り戻して、また元のやさぐれた生活に戻ったシュヴァリエ。

そんな生活が長続きするはずもなく、マノンはまたも金持ちの男の

元にいってしまう。

そして、今度もマノンを取り戻そうとしたシュヴァリエだったが、

今度はうまくいかず、2人も捕まってしまい、自身は父の力で

無罪となったが、マノンはアメリカへの流刑が決定した。

シュヴァリエはどこまでもマノンと一緒に生きていこうと決意し、

2人はともにアメリカに渡り、移民の村で慎ましく暮らし始める。

ところが、マノンに横恋慕した男との決闘でシュヴァリエは

彼を殺してしまったと勘違いし、マノンを連れて逃げるが、

その逃避行の最中にマノンは息絶えてしまう。

マノンを埋め、その上で自らも死のうとしていたシュヴァリエだが、

発見され、手当てを受け、パリに戻ることになる。

そこに、シュヴァリエを探して海を渡ってきたチベルジュと再会し、

シュヴァリエは人生を新たに生き直そうと決意するのだった。

身持ちを崩す、というのはこういうことを言うのか。

シュヴァリエの人生はマノンと出会ったことにより、転落の一途を

辿っていきます。

シュバリエがマノンとさえ出会わなければ……

彼の人生は父や兄などの庇護者にも恵まれ、順風満帆だったことでしょう。

シュヴァリエの運命を狂わせまくったマノン、どんな女性だったのでしょう?

一人の男の人生を狂わせた悪女でしょうか?

彼女は贅沢を好みます。

シュヴァリエがお金がなくなると打ち明けると、彼女はさめざめと泣いてしまいます。

彼女は貞操観念が緩いです。

お金のためにシュヴァリエの元を去ること度々です。

彼女は嘘をつくのが上手なようです。

シュヴァリエは青二才なので特に欺きやすかったことでしょう。

このように、悪女要素満載のマノンですが、私は彼女の印象、悪くないんですね。

悪女要素は満たしていますが、マノンって本当に悪女なのかな?と

読みながら考えていました。

マノンは浪費家ですが、お金をシュヴァリエに「なんとかして稼いで!」と

ねだるような描写はありません。

彼女はお金がなくなると、ただ「貧乏は嫌だわ、どうしたらいいの?」と

泣いてしまいます。

泣くことで無言のプレッシャーをかけていたのでは?という意見もあるかと

思いますが、それにしては彼女、シュヴァリエが金策に走るのを待っている様子もないんです。

自分の美貌を武器にしてお金持ちの元にお金や宝石をもらいに行ってしまうんですね。

そして彼女の面白いのは、自分が金持ちの男にあっている間に、

シュヴァリエに別の美人をあてがったりするんです。

マノンに惚れ込んでいるシュヴァリエとしては、絶望の淵に叩き落されるような

ショックでしょうが、私は笑ってしまいました。

無神経なわりに、変に気が利きすぎです。

そして後でシュヴァリエにこのことを責められた時の彼女の言い訳に、

マノンの人生観がよく表れています。

 「私があなたにお願いしますのは心の操なんですから」

発想がぶっ飛んでますが、自分に望んで欲しくないことは相手にも望まない

という筋が通っているように思えます。

要するに、マノンは自分に正直な女性なのだと思います。

恋においても駆け引きするようなタイプではなく、表裏のない性格。

欲望にも忠実で、自分にないものを他人にも求めない。

自分の武器となるものは躊躇せず使う。

さばさばとした現代的女性、それがマノンではないかと思います。

この作品が書かれたのは18世紀後半。

マノンの性格では男を振り回すことでしか生きていけない

時代だったのかもしれません。

もし、彼女が現代に生きれば、わりと男女問わずに愛されて、

普通に幸せをつかんだのではないかな、と想像しています。

最後に作者であるアベ・プレヴォの生涯について簡単に触れたいと思います。

というのも、この『マノン・レスコー』は作者の自伝的小説だともいわれているのです。

不明な点も多いのですが、わかっている部分だけ見ても波瀾万丈です。

アベ・プレヴォの生まれは北フランス、最初は宗教家として生きるべく、教育を受けますが、

本人の希望で断念、16歳の若さで軍隊に入ります。

ところが、軍隊も性に合わなかったのか、すぐに出奔してオランダへ行き、

そこで女性たちと奔放な生活を送ったそうです。

ここからまたフランスへ数年して戻り、懲りずに軍隊に入り、また数年でやめ、

宗教家の道に出戻りします。

今度は文章を書くという仕事も与えられ、それなりに充実した生活を送っていたようなのですが、

これも途中放棄。

これには教会も怒り、逮捕状がだされてしまったため、彼はイギリスへ逃亡します。

その後、オランダ → イギリス と移動し、フランスへ戻れない年数が積み重なり、

故国へ帰りたくなったアベ・プレヴォは友人たちの手を借りて帰郷を果たします。

それからも多少の揉め事はあったものの、落ち着いた文筆家としての生活を送った、とされています。

若いころはあちらこちらと動き回り、女性にもモテたそうなので、

そのころの経験が『マノン・レスコー』に反映されているのかもしれませんね。

奔放な自分と、宗教家としての自分の両面を、それぞれ主人公のシュヴァリエと、

その親友であり誠実なチベルジュに分けて書いたのではないか、と言われています。

作者の生涯を念頭に置いて読むと、また違った魅力が出てくる作品のようです。


いかがでしたでしょうか?

最後は悲劇に終わってしまう作品のため、読後感はよろしくないのですが、

ヒロインのマノンの魅力は折り紙付きです。

私が読んだのは岩波文庫ですが、光文社古典新訳文庫でも出版されていますので

探す時の参考になさってください。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!

よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。

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