読書感想|権力に挑戦した中世の英雄を堪能できます、皇帝フリードリッヒ二世の生涯(塩野七生)

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皇帝フリードリッヒ二世の生涯 塩野七生 新潮文庫

塩野七生さんは西洋史をメインにしたノンフィクション作家で、文庫本にして全43巻の大長編『ローマ人の物語』の作者でも有名ですね。

過去の才能あふれる男性に目がない塩野七生さんが、昔から書こうと思い続けていた、いわば長い恋の末に書かれたのが今回ご紹介する本です。

恋した相手はタイトル通り、神聖ローマ帝国の皇帝、フリードリッヒ二世。

歴史本を読むのは好きですが、詳しくはないのでどのような業績を残した人なのか、この本を読んで知りました。

読むと分かります、惚れるのも仕方ないですね。

女性はもちろん、男性にも好まれそうなお人です。

頭の良さに行動力が伴い、やり抜く意志力も抜群という、どんな時代に生まれても歴史に名を残しそうな人物として、生き生きとフリードリッヒ二世が描かれています。

それでは、内容をご紹介しますね。

目次
 1.おおまかな内容
 2.塩野七生さんの特徴
 3.中世について知りたければこちらもどうぞ


1.おおまかな内容

皇帝フリードリッヒ二世の生涯についての本なので、生まれてから、死ぬまでを網羅して書いてあります。

フリードリッヒ二世がどんな偉業を成し遂げた人なのかというと、

 ・皇帝をトップとして司法権を持った中央集権国家を構想

 ・絶大な権力者である法王と対立し政教分離をめざした

 ・イスラム世界とのトップ外交により、対談だけで聖地エルサレムを奪還

 ・ドイツ語、イタリア語、ラテン語、ギリシア語、フランス語、そしてアラビア語まで使いこなした

 ・国立大学を創立

これだけの内容を成し遂げた人なんですね。

そして、生きた時代背景を知ると、これらが当時、いかに革新的で実現に一苦労どころの話ではなかったことがわかります。

フリードリッヒ二世の生きた時代は、今でいう中世ど真ん中。

カトリック系キリスト教がヨーロッパ中を席巻し、そのトップである法王が絶大なる権力を持っていました。

「法王は太陽、皇帝は月」という言葉がまかり通っていた、そんな時代です。

その法王にとって、気に障ることばかりやらかしていたのが、フリードリッヒ二世なのです。

そして、その代償に3度も破門をくらっています。

中世の人々は宗教心が厚く、何よりも「破門」されることを恐れていたそうです。

一般人にとって破門は、天国への門が閉ざされるという不安に直結しましたが、皇帝や領主などの権力者ともなると不都合は死後にとどまりません。

・破門を受けた人の滞在した地域、立ち寄った地域全てが「聖務禁止」になる。

・破門を受けた人の領民は税・徴兵等の義務をすべて免除される

2点目はわかりやすいデメリットですね、皇帝にとっては大打撃です。

1点目の「聖務禁止」とはなんでしょうか?

平たく言えば、生まれたときに行う「洗礼」や、「結婚」「葬式」といった冠婚葬祭の禁止です。

生まれたきた赤ちゃんに洗礼を行わないとキリスト教徒とは認められず、天国への切符を逃してしまいます。

死ぬときに聖職者に祈ってもらわないと、これまた同様です。

つまり、破門というのは皇帝の手足をもぎ、さらに市民たちからのバッシングを盛り上げる、法王の持つ効果絶大な武器だったわけです。

この破門を3度もくらい、それでいて法王に負けぬ権力を築き上げた人、それがフリードリッヒ二世です。

彼がどんな風に偉業を成し遂げていったかは、ぜひ読んでいただきたいと思います。

歴史ものの常で、どんな権力者にも死が訪れますし、盛者必衰の理の言葉がフリードリッヒ二世にも当てはまりますが、彼の場合、権力の衰えは死後、息子たちの代になってからのことですので、読後に残る切なさは最小限かと思います。

2.塩野七生さんの特徴

これまでも多くの本を執筆されてきた塩野さんですが、文章がとても読みやすく、面白い作家さんで、我が家の蔵書冊数ナンバー1は塩野さんです。

塩野さんの特徴は

・題材選びがとても上手

・歯切れのよい文章で読みやすい

・フックが上手い

1点目の題材選びが上手いことは作家の絶対条件ですよね。

今回は偉人としてフリードリッヒ二世という類まれなる才気の持ち主を採り上げましたが、過去には古代ローマやルネサンス期のヴェネチアなど、人ではないテーマも多く取り上げています。

古代ローマもルネサンス期ヴェネチアも、最盛期の繁栄はこの世の春、向かうところ敵なし、という状態にまでなりますので、読んでいて、とても気分がよくなります笑。

読書そのものが面白いのに、気分まで良くなれるなんて最高ですよね。

さらに2点目の歯切れよく読みやすい文章で語られているので、苦痛なくどんどんページが進んでいきます。

3点目のフックが上手いのも、読み進めやすい大きな理由です。

度々このブログでは取り上げていますが、この後どうなるのかな? と読者の興味をひくための一文のことをフックと呼びます。

フックで読者の興味をひき、情報を小出しにしながら結論を持ってくる。

この流れがうまくいくと、文章はとても面白くなります。

塩野さんの本書の場合、結論が「フリードリッヒ二世は○○に成功したのだった」という、成功事例になることが多いので、さらに読者の気分は盛り上がるわけです。

塩野さんのフックの使い方はわかりやすいので、どの文がフックにあたるか、探しながら読んでみると、文章力アップに繋がりますよ。

テーマ選びから文章作成まで、面白く読めるように工夫してあるので、塩野さんの本は歴史という難しい分野でも読みやすくなっているんですね。

3. 中世について知りたければこちらもどうぞ

今回は中世が舞台の歴史読み物をご紹介しましたので、他にも中世ものをあげておきます。

同じ塩野さんの本であれば

ローマ亡き後の地中海世界 (全4巻)

十字軍の物語 (全4巻)
 こちらには『絵で見る十字軍物語』という版画を中心とした本もあります。

海の都の物語 (全6巻)
 ヴェネチアを主役にした本で、前半が中世にあたります。

これらが中世シリーズとして紹介されています。(全部新潮文庫より出版)

他にも、中世と言えば、十字軍、をテーマにした、ただしこちらはイスラム教側からみた十字軍を描いた

アラブが見た十字軍 アミン・マアルーフ ちくま学芸文庫

などがあります、興味のある方はぜひ。


いかがでしたでしょうか?

歴史上の人物というのは容姿が正確に後世に伝わることは不可能です。

フリードリッヒ二世も半壊状態の石像くらいしか残っていません。

しかし、それは如何様にも想像することが可能ということです。

中身は相当ないい男だったらしいフリードリッヒ二世、姿も自分好みに想像してみると、また楽しくなりますね。

ここまで読んでくださってありがとうございました!

よろしければ感想など、コメントを残していってくださいね。

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