天然イケメンとツンデレ大学生の絆が魅力:准教授・高槻彰良の推察(あらすじと読書感想)パート1
元ライターが作家目線で読書する当ブログへようこそ!
今回ご紹介する本はこちら
准教授・高槻彰良の推察シリーズ 澤村御影 角川文庫
小説は7巻と短編集まで出版されていて、コミカライズも好調、さらに、2021年8月にドラマ化されたシリーズです。すごく人気の高いシリーズということで、期待が高まる中、原作の小説を読んでみました。
結果、大当たりです! 少なくとも私の好みにはドストライクでした。
大学生の主人公と、准教授である高槻が年の差と立場の違いを越えて友情と信頼が育まれていく過程が丁寧にわかりやすく描写されていて共感と好感が持てます。
特に1作目は今後の展開が気になる終わり方をしていて、このシリーズは、続きも読もう! と決めました。
この記事では、原作小説1巻から5巻までのあらすじと感想をご紹介しています。
登場人物紹介はこちらからどうぞ
6作目以降のあらすじと感想はこちらからどうぞ↓
それでは、さっそく内容をご紹介していきましょう。
ドラマ版ファンもいらっしゃるかと思い、ドラマに対応している原作に目印をつけました。ドラマはSEASON2の後半からオリジナル展開に入るようなので、全話に対応した原作があるわけではないのでご承知おきください。
目次
1.シリーズ1作目『民俗学かく語りき』
第1章 いないはずの隣人
※ドラマSeason1第5話原作
第2章 針を吐く娘
※ドラマSeason1第2話原作
第3章 神隠しの家
2.シリーズ2作目『怪異は狭間に宿る』
第1章 学校にはなにかがいる
※ドラマSeason1第1話原作
第2章 スタジオの幽霊
※ドラマSeason1第4話原作
第3章 奇跡の子供
※ドラマSeason2第1、2話原作
3.シリーズ3作目『呪いと祝いの語りごと』
第1章 不幸の手紙と呪いの暗号
※ドラマSeason1第5話原作
ドラマSeason1第6話原作
第2章 鬼を祀る家
※ドラマSeason1第3話原作
【extra】それはかつての日の話
4.シリーズ4作目『そして異界の扉がひらく』
第1章 四時四十四分の怪
※ドラマSeason1第7話原作
第2章 人魚のいる海
【extra】それはかつての日の話Ⅱ
5.シリーズ5作目『生者は語り死者は踊る』
第1章 百物語の夜
※ドラマSeason2第3話原作
第2章 死者の祭り
※ドラマSeason1第8話原作
【extra】マシュマロココアの王子様
1.シリーズ1作目『民俗学かく語りき』
まずは簡単なあらすじからご紹介しましょう。
第1章 いないはずの隣人(ドラマSeason1第5話原作)
深町は、小さいころ夏休みに遊びに行った祖母の家がある村で不思議な体験をした。それ以来、深町は人の嘘を聞くとその部分の音が歪み、人がついた嘘を聞き分けられるようになってしまった。この不思議な力のために、彼は家族ともうまくいかず、親しい友人も作らず孤独に生きてきた。
しかし深町が大学一年生になり、人気のある『民俗学Ⅱ』の講義を試しに聞きに行ったことがきっかけで、高槻彰良という准教授と知り合いになる。
怪奇現象に目がない高槻は大学の仕事のかたわらで、怪奇現象専門の相談を受け付けていた。イケメンで物腰柔らかく完璧に見える高槻だが、極度の方向音痴のため深町を助手としてバイトに雇いたいという。
戸惑う深町だったが、成り行きで高槻に付き合うことになった。
2人の記念すべき最初の依頼は、独り暮らしの女性からの相談だった。
女性が語ったのは、一人暮らしのアパートの隣室から変な音が聞こえる、というもの。隣室は空き家のはずで、他にも不気味な出来事がたくさん起きて困っているという。
その話を聞いたとたん、高槻は依頼人の女性の手を握りしめ――深町は、高槻が自分をバイトとして雇った真の理由を悟ることになる……
第2章 針を吐く娘(ドラマSeason1第2話原作)
初めてのバイトが終わり、深町は高槻とそれ以上深く関わるつもりはなかったが、夏休み中に幽霊画展を見にいこうと誘われ、断り切れず付き合うことにする。
高槻の幼馴染・佐々倉と、院生の瑠衣子も一緒に幽霊画展へ行き、その帰りに偶然出会った高槻の授業を受けている女子大学生2人組から、奇妙な現象について相談を受けた。
夜の公園で藁人形を見かけてから、気が付けば自分の周囲に針が落ちているのだという。そして、相談を受けている最中にも、高槻達の目の前で怪奇現象は起きた。相談者が食べていたケーキの中から針が出てきたのだ。
怯える彼女たちをみて、高槻は深町を巻き込んで依頼を受けることするが、その解決法は一風変わったものだった。
第3章 神隠しの家
夏休みが終わっても、高槻は深町をバイトに誘う。
今度の依頼は神隠しの真相を知りたいというもの。友人が神隠しにあい、無事に戻ってきたのだが、その間の記憶を一切なくしているのだという。
高槻は渋る深町を強引に説き伏せて神隠しがあったとされる廃屋に忍び込むことするのだが……しかし、そこでは大きな危険が待ち受けていた。
深町はこの事件をきっかけに、高槻が幼いころに体験した奇妙な体験について知ることになるのである……
(感想)わかりやすい、面白い、読みやすいの3拍子
シリーズの続刊を読むかどうかが決まる、とても大事な1冊目、私はもうハナマルをつけたくなるくらい、素晴らしい本に出会えたと思いました。
書かれているのは、主役の2人、大学生の深町と准教授の高槻がいかにして出会い、友情と信頼を構築していくのか、というその過程です。
シリーズものの1作目って、そういう絆を描くのが一般的ではあるんですが、この2人に限っては、ハードルが高いことだったりするのです。
深町も高槻も、幼いころに体験した怪奇現象のせいでその後の人生を大きく狂わされています。例えば、2人とも都内に実家があるにもかかわらず、一人暮らしをしています。彼らの人生に起こった変化を、両親さえも受け入れることができずに、そのことが2人の心を大きく傷つけてしまったためです。両親すらダメだったのに、いわんや他人をや、です。
彼らの体験したことと、その後に起こった人生の変化は簡単に人には知られてはならないタブーになっているのです。
このよほどじゃないと越えられないラインを、2人がどう乗り越えて、信頼関係を築くのかが丁寧に、そして分かりやすい文章で語られています。
特に、文章は深町の視点で書かれているので、深町が高槻を信頼していく過程をドキドキしながらも共感たっぷりに読めました。
深町は幼いころに不思議な体験をしてから、人の嘘がわかるようになってしまいました。嘘をつくと、その箇所だけ声が歪んで聞こえてしまうんです。悲しいことに人は日常的に多かれ少なかれ、嘘をつきます。何気ない会話の中にまぎれこむ他愛のない嘘にも気づいてしまう深町は一人孤独に生きてきました。
しかし、高槻は出会ってから、本当に必要な時以外は一切嘘をつきません。
深町にとって、聞いていて安心できる人の声というのが、どれほど価値のあることか。深町が高槻に興味を持つきっかけとして十分に理解できました。
さらに、高槻は普段の言動は突拍子もなく、一回り以上年下の深町よりも幼い印象すら与えるのですが、時に年上らしく、人生に必要な嘘もあることや、真実を知りたいと思う気持ちの大切さなど、まだ青春期にある深町を、教え諭して導いていきます。
深町には、高槻の言葉に嘘がないことがわかるので、それがとってつけた大人の理論ではなく、彼の本心と誠実さだと信じることができるので、高槻に自分の過去の秘密を話し、彼と共にいようと思うようになっていきます。
この大きな心の変化を、不思議な事件の解決に絡めながら読んでいけるので、それはもう、サクサクと読み進めてしまいました。
事件の謎解き自体も気になるし、深町が高槻と仲良くなっていく過程が早く知りたい、とほぼ一気読みでした。
面白さもさることながら、文章自体も非常に読みやすいです。必要最低限のことしか書いてない、という印象です。それでいて、物足りないという感じはなく、むしろ、ものすごく読んでいてわかりやすく、「この時、深町は高槻のことを信頼し始めて、だから次も高槻についていこうと思ったんだな」と、キャラクターの心理と行動がすっと頭に入ってきました。読んだ人の感想の中には「少し予定調和では?」という意見もありました。無駄がなさすぎるせいかと思いますが、むしろ練り上げられた構成のたまものではないか、と私は感じました。
内容的には20代の若い女性をターゲットにした作品かと思いますが、この読みやすさなら10代のもっと若い世代でも読めるし、「もっと評価されてもいいんじゃない!?」 と本屋で平積みされていないのが不思議なくらいでした。(うちの近所の本屋がたまたま平積みしてなかっただけかもしれない)
また、この作品の世界観もすごく魅力的です。主役2人の過去やその後の人生の変化は間違いなく怪奇現象で、たぶん不思議なことはこの世の中にある、と認めている世界観なのに、本書のなかで起こる事件はすべて人が起こした、種も仕掛けもある事件でした。読み終わった後に残るのは、今後にこの世界観がどう広がっていくのかな、という期待でした。
「いつか、彼らは本当の怪異に出会うことがあるんだろか?」
「いつか、彼らの身に起きたことの真相も、説明がつくようになるんだろうか?」
読み終えてすぐ、2作目を購入したことは言うまでもありません。
2.シリーズ2作目『怪異は狭間に宿る』
まずは簡単なあらすじからご紹介しましょう。
第1章 学校には何かがいる (ドラマSeason1第1話原作
以前知り合った小学生の大河原智樹の紹介で、小学校で起きた怪現象を調査することになった高槻達。
放課後にこっくりさんをしていた女の子たちが、こっくりさんが帰ってくれなかったためその正体を聞いたところ、体が弱くてほとんど学校に来れないまま転校していった女の子の名前を告げ、クラスのロッカーに憑りついてしまったのだという。
問題のロッカーでは、それ以来ひとりでに開いてしまうことが増えてしまったというのだが……果たして本物の怪奇現象なのだろうか?
第2章 スタジオの幽霊 (ドラマSeason1第4話原作)
学園祭が近づく中、深町は風邪をこじらせ中耳炎になり寝込んでしまう。
高槻は学園祭でトークショーに出演する。そこで知り合った女優から、撮影スタジオで起きる怪奇現象の調査依頼を受けた。
深町もバイトとして共に調査に向かうことになるのだが……風邪が治り切らない深町には、大きな異変が起きていた……
第3章 奇跡の子供 (ドラマSeason2第1話原作)
奥多摩で起こった遠足中の事故で、一人の女の子を残し、1クラス全員が死亡するという悲惨な事件があった。
その後、生き残った女の子は「奇跡の少女」としてカリスマ的存在になっていた。
奇跡の少女をあがめる身内を心配した男性が、怪しい宗教ではないか調べてほしいと高槻に依頼する。
普段の高槻なら断りそうな依頼内容なのに、なぜか高槻は依頼を受ける。
深町は調査が終了した後、その理由を高槻から聞くことになるのだが……それは今の高槻からは想像もできないつらい過去へと繋がっていた……
(感想) テーマは 要らない、とされることへの恐怖
2作目を読み終わった私の感想は「これは、気持ちがざわつくなあ……」というものでした。
本書のテーマが身近でありながら、心をえぐってくるようなテーマだったんです。
3つの短編が収録されていますが、共通するのが「要らない、とされることへの恐怖」です。
クラスメイトから忘れられた女の子、
芸能界で干されつつある中年女優、
そして、実の母親からいないものとして扱われる息子。
各短編で要らないとされる人たちの悲哀が語られ、死んでもいないのに忘れられるというのは、とても残酷なことだという内容を、一貫して描いています。
その残酷さは、特に深町に牙をむきます。
今回、深町の身に起きた異変のために、高槻との間にある共通点という絆が切れかけてしまうのですが……おかげで深町は「もう高槻は自分と一緒にいてくれないのでは?」という焦りと不安にかられることになります。
「わかるなあ、その気持ち」と思います。
人間同士が仲良くなるうえで、共通点って強固なロープみたいなもんだと思います。それが切れてしまったら? 私は現在、子育て中なので、普段付き合う人はママ友が多いのですが、子育て終わったらどうなるんだろうなーと、たまに思います。
「縁切れるのかな? せっかく仲良くなったけど」
たぶん、切れるんでしょうね。子供が巣立てばよほどのことがない限り、ママ友との縁は切れると思います。深町と高槻を結んでいる絆には遠く及ばないと思いますが、縁が切れると思うと、やはり寂しいし、切ないし、嫌だという気持ちがわきます。
深町の感じた焦りや孤独感は、きっと私の比にならないものでしょう。
一人苦しむ深町ですが、安心してください。本書の中で深町の苦悩には決着がつきます。次巻への持越しはないので、慌てて3作目を買う必要なないですよ。
個人的には、深町の苦悩の解決のされ方がなかなか熱烈でニヤニヤと笑ってしまいました。読み終わってしばらく経った今でも、大体の文章を覚えているくらい印象的です。
そして、2作目では、作品自体の世界観も、一歩広がります。
1作目では、怪奇現象と思われた事件も、結局は人のしわざだったことが明らかになるのですが、今回は、すこーしだけ「え? 本当の怪奇現象だったんじゃ…?」という余韻を残して終わる事件があります。
「怪奇現象かと思わせて、実は人のしわざでしたー!」というのを売りにしている小説は京極夏彦の『姑獲鳥の夏』から始まる百鬼夜行シリーズや、瀬川貴次の『ばけもの好む中将』シリーズがありますが、『准教授・高槻彰良の推察』シリーズはそこから不思議な世界へ踏み出すようです。
シリーズの世界観が少しずつ広がっていくのも、『准教授・高槻彰良の推察』シリーズのおススメポイントだと思います。
主人公2人に今度はどんな不思議がふりかかるのか……ついに本物の怪異が登場するのか!? そして絆はさらに深まっていくのか……
気になりすぎて結局3作目もすぐに買ってしまいました(笑)
3.シリーズ3作目『呪いと祝いの語りごと』
まずは簡単なあらすじからご紹介します。
第1章 不幸の手紙と呪いの暗号 (ドラマSeason1第5話、第6話原作)
深町は大学で唯一ともいえる難波を見かける。いつも元気な彼が落ち込んでおり、その原因は「不幸の手紙をもらってしまったからだ」という。
放っておけなかった深町は難波を連れて高槻の元に向かい、そのついでに高槻のバイトにも付き合うことにする。
今回の依頼は「図書館のマリエさんの呪い」というもの。図書館の本の中に、赤い文字で暗号が書いてあり、それを見たら不幸になるという、不幸の手紙とよく似た都市伝説の調査依頼だった。
不幸の手紙は本当に存在するのか。不穏な偶然が重なり深町の心は騒ぐのだった……
第2章 鬼を祀る家 (ドラマSeason1第3話原作)
春休み、2泊3日で瑠衣子の両親が経営するペンションに遊びにやってきた高槻、佐々倉と巻き込まれた深町。
高槻はペンションの近くにある鬼が祀られているという洞窟に2人を誘い、そこで偶然にも人間の頭蓋骨を発見してしまう。
近隣の村には鬼の伝説が残っており、高槻は興味津々に調査に乗り出すが、そのことがとんでもないアクシデントを招いてしまう。
度重なる不幸な出来事に深町は「呪い」が本当にあるのでは、と恐怖する……
【extra】それはかつての日の話
小学校1年のころ、佐々倉は人懐っこい同級生の男の子と知り合いになる。それが高槻だった。
2人は仲良くなり、小学2年の夏休み、佐々倉は高槻家の別荘に招かれた。
毎日楽しく遊んでいた2人だが、ある時別荘の近くの森で怪しい人影を見ることになる……
(感想) 深町の大きな成長に感動
読みどころ盛りだくさんのシリーズ3作目、一体どこから紹介すればいいのか……! 悩むほど、語りたいことがたくさんありますが、本作1番のみどころである、深町の成長について語りたいと思います。
これまで、高槻とともにいろいろな経験をしたおかげか、最初のお話『不幸の手紙と呪いの暗号』で、「どうした深町!?」とシリーズ初期からの読者には驚きの行動を見せてくれました。
困っている友人、難波の悩み相談にのり、高槻のところに自ら助けを求めに行ったのです!
……それって普通のことじゃない? と3作目から読まれた方は、そう思われたでしょう。でも、深町に限っては大きな変化の証拠なんです。
思い起こせば1作目、難波が初めて登場した時、深町は彼の名前を覚える気すらなかった……
そして2作目では、自分が高熱にうなされて大ピンチにもかかわらず、誰かに助けを求めるという発想すらなかった……
深町には元々、心優しい一面はありましたが、積極的に他人に関わってまで面倒をみることも、誰かに相談したいという発想も、1作目では絶対にありえなかったんです。
高槻が強引にでも深町を自分の相棒にした効果が現れ始め、嬉しいやらビックリするやら、冒頭からワクワクさせてくれました。
そして、本書の中でも、深町は変化し続けます。
変化のきっかけとなるのはもちろん、高槻です。
高槻はなかなかの秘密主義者であることが分かってきましたが、今回、本人は不本意とはいえ、深町に弱みを見せるシーンが多発しています。
おかげで深町は高槻のことが心配で、気になって仕方ない^^;
高槻がピンチになるときは助けになりたいと思い始め、ついには無茶ばかりする高槻を叱り飛ばすまでになります。
そして、一番の見せ場は『鬼を祀る家』の最後の謎解きシーン。
いつもなら高槻が謎を解いている横で、(そうだったんだあ……)(あ、今この人嘘ついたな……)と、もっぱら心の声のみで参加していた深町ですが、今回は「それは嘘です」と自分ではっきりと言い放ちます。
高槻がやっていたことの一片を、彼が担い始めたのです。
緊迫した場面でしたが、「相棒らしくなって……!」と深町の成長が感じられるシーンでもありました。
深町のことばかり書いていますが、高槻もしっかり活躍していますよ! 本編ではないですが、高槻と佐々倉の子供の頃を書いた『それはかつての日の話』には可愛い2人が動き回って微笑ましかったです。佐々倉も子供の頃は可愛かった……!
完全に蛇足な感想
最後に、蛇足になることを覚悟で、私なりの3巻、深読み解釈を、ここで垂れ流しておきます。
この本を最後まで読み切った時、私には疑問が残ったのです。
問題のシーンは、本書の一番の見せ場と言っても過言ではない、謎解きの場面で、深町が「それは嘘です」と言い放ち、高槻の相棒として成長を見せる場面です。
「深町は、なんで、このセリフを言ったのだろう?」 私の感じた疑問はこれでした。
深町の成長を見せる大事なシーンではありますが、実は、少し唐突に感じたのも事実なのです。深町の心理的成長は、全て高槻と絡ませて描写されており、高槻ではない、他の誰かに感情を露わにして「嘘」を突き付けるというのがどうにもしっくりこない……というのが、唐突感の理由でした。
作中では「なりふりかまってられないじゃないですか」と、深町自身が言い訳めいたことを言っていますし、多分それが真相なんだろうな、と思いつつも、読み終わってからもしつこく、しつこく、深町のセリフの意味を考え続けました。
そして、ひねり出しましたよ。
本作では、高槻の弱みを深町が目撃してしまうシーンが多くあり、深町はいつも陽気に振舞い、友人もしっかりいる高槻でも、実はこの世のものではない不可思議な世界と現実との境界線上にいるのだと実感させられます。
彼がその境界線を超えないように、自分も高槻を助けたいと思うようになるのですが、そこで、気づいたのが、深町が「嘘」をつきつけた相手の境遇です。
殺人を犯したと自白している相手に向かって言うのですが、この殺人という行為、もちろん、日常的にある行為ではないですよね。日常と非日常の間に線が引かれているとしたら、確実に非日常の、境界線を超えた向こうにある行為です。殺人を犯したと言って、自ら境界線を超えようとする人物を止めるための言葉が「それは嘘です」だったということになります。
高槻を助けたいという思いを、相手は違うけれど体現したセリフ、それが「それは嘘です」だったのかな、と私は解釈をこねくり回して作り上げました。
自分では、これで深町の気持ちがストン、と胸に落ちてきたのですが、これはさすがにうがった見方だろうな、という気が自分でもしています。作家が自分の作品が試験問題に使われたから解いてみたら全然わかんなかった、という、アレです。深読みしすぎな解釈という奴な気がします。
まあ、でもいいではないですか。読書は試験ではないですし。読んだ人数の分だけ、解釈が生まれる。それが読書の楽しみの一つでもあるのですから。
4.シリーズ4作目『そして異界の扉がひらく』
まずは簡単なあらすじからご紹介します。
第1章 四時四十四分の怪 (ドラマSeason1第7話原作)
今回高槻の元に寄せられた相談は「四時四十四分の呪い」というもの。会社の同僚たちと面白半分に都市伝説を試してみたところ、後日、一人の同僚に次々と不幸なことが起こっているのだという。
高槻は会社に出向き調査を開始する。エスカレートしていく一方の不幸な出来事は、呪いかそれとも……
調査が終了した後、深町は自分にも深く関係のある、驚きの事実を知ることになる。
第2章 人魚のいる海
深町は大学で偶然、高槻の叔父・高槻渉と出会う。年齢は離れているが、ハンサムですらっとした容姿も、紳士なくせにどこか子供じみた性格も、高槻と渉はよく似ていた。
深町は渉から高槻の留学中の様子を聞かされることになる。高槻が過酷な過去の事件でどのような目に遭い、そしてどのように立ち直っていったかを知った深町は心を痛める。
そして渉が滞在中に、江ノ島で人魚が出たという噂が起こり、高槻は佐々倉、深町、渉を誘って日帰りで江ノ島へ行くことにする。
そこで「お母さんが人魚になった」という少年と知り合いになるのだが……人形は実在するのだろうか?
そして、高槻はついに念願の ”本物” を目の当たりにすることに……!?
【extra】それはかつての日の話Ⅱ
渉は20年前、当時から絶縁状態だった義理の兄に、息子、つまり高槻彰良を預かってほしいと頼み込まれた。渉は悩みつつも、絶縁状態の自分に頼み込むくらいだから何か特殊な事情があるのだろうと、イギリスのアパートに高槻を受け入れることにする。
渉の不安をよそに、彰良はすぐにイギリスでの生活に馴染んだかに思えたが……共に生活して見えてきたのは彰良の不思議と、深い心の傷だった……
次回、いよいよ大事件が起きる……んだろうか?
シリーズ4作目、今回のテーマはサブタイトル『そして異界の扉がひらく』の通りです。
これまでも、このシリーズでは怪奇現象が現実に存在するという世界観を仄めかしてきましたが、今回でそれが決定的になりました。ここからいよいよ、高槻、そして深町の過去の謎へと近づいていくのでは!? という期待が高まったところで、次巻に続きます――!
世界観がさらに広がっただけでもテンションあげりますが、さらに、今回は次巻以降に予告とも思える予言がとある人物によってくだされます。それによると、高槻にはこれから周りを巻き込んだ大騒動が待ち受けているようなので(周りを巻き込むのは毎回な気もしますが)少しの不安と大きな期待でワクワクもしています。
そして今回、驚いたのはこれだけはありません。
深町にとって、衝撃的な出会いが待っていました。その出会いがいいものだったか、悪いものだったのか……今の時点ではわかりません。ただ、その出会いが確実に深町にもたらしたのは、自分の未来に対する明確な不安です。
今まで、漠然と、「僕はこのまま孤独に生きていくのかな……?」という不安を抱いていた深町ですが、その未来が現実になるかもしれないと突き付けられてしまいます。しかし深町は不安におびえるだけでなく、自分の何かを変えなければいけないと、少しずつながら努力を始めたりして……成長した姿と健気さに応援したい気持ちが増し増しでした。
そんな深町の未来には、試練が待ち受けているらしいです。毎日人の嘘が分かってしまうことも十分試練だと思うので、まだ上があるんかい!と少し可哀そうになりますね^^;
とにかく、彼らに近いうち、つまり5作目では大事件が起こりそうな気配がぷんぷんと漂っていました……!
(ちなみにこの記事を書いている時点で、私は5作目を読んでいません)
(予想がはずれていたらすみません……)
ここまで、シリーズが進むごとに絆を深め合ってきた高槻と深町ですが、この巻ではいろいろと衝撃的なことが起こり、高槻と深町の関係に変化はありませんでした。いや、それよりもむしろ、2人が似たもの同士でありながら、実は真逆の方向を向いているのでは? と思わせるところがありました。
高槻と深町、それぞれが本音では現実とどう向き合っているのか、明確になったという気がするのです。
高槻は過去の秘密を暴くこと
深町は孤独な未来を防ぐこと
過去に起こった怪奇現象で傷を受けた似た者同士の高槻と深町ですが、彼らが向き合っている現実は、真逆の方向を向いている感じがしませんか? 高槻は一見前向きに生きているように見えるけど、過去に囚われてしまっているようで、危なっかしい人だなあと思います。なぜ、佐々倉や渉は彼が過去にこだわることを止めないのだろう……?
止めようにも止まらなかったのだろうと思いたいですが、高槻に過去ではなく、未来を見つめさせる役割が、深町には今後与えられるのかな、と読みながら考えていました。そして、深町には孤独な未来や、傷ついた過去に囚われずに、第三の道を見つけていく選択をしてほしい、と思いました。
5.シリーズ5作目『生者は語り死者は踊る』
まずは簡単なあらすじからご紹介します。
第1章 百物語の夜
大学が夏休みに入り、高槻の誘いで百物語に参加することになった深町。
参加者が交代で100個の怪談を披露し手持ちのライトを消していくという趣向だ。
本物の百物語では、100個目の怪談が終わり、全ての明かりが消えた時に、異変が起こるというのだが……
深町は皆の怪談を楽しみつつ、緊張してすべてのライトが消える瞬間を待つ。
第2章 死者の祭 (ドラマSeason1第8話原作)
夏休みも半ば、深町は高槻、佐々倉とかねてから約束していた長野旅行へ出かける。目的地は深町の祖母の家があった山村で、深町が体験した謎の死者の祭りの正体を探ることが目的だった。
山村に向かう前日、まずは深町の従兄に会い、祭りについて何か知っていることはないかと聞くが、彼もよく知らないという返事。その代わりに、従兄は祖母が死ぬ前に漏らした言葉を教えてくれた。
「尚哉(深町のこと)は育たんかもしれん、山神様にとられたから」
不吉な言葉に胸を重くしつつも、山村で調査を開始する高槻たち。特に手掛かりらしいものを得られぬまま、夜を迎える。
夜の山村で待ち受けていたのは、幼き日に体験した通りの祭り会場。これはいったいどういうことなのか?
さらに調査をしようと会場に近づいたとき、深町は高槻と共に「本物」に招かれてしまう。
【extra】マシュマロココアの王子様
瑠衣子は友達に「高槻先生のこと、好きになったりしないの?」とよく聞かれる。
その度に「イケメンすぎる」と誤魔化す瑠衣子だが、実際、瑠衣子の高槻への好意は恋愛感情とは違っている。
瑠衣子が高槻へ好意を持ち始めたのは、瑠衣子がまだ学部生だったころだ。
大ピンチ、その時の高槻の行動の意味とは……
前の巻で予言した通り、今回は大事件が起こりましたね。前半はのんびりとしたいつものテンションの話だったので、すっかり油断していましたが、後半、かなり怖かったです^^;
いよいよ、怪異がその牙を剥いて襲ってきました。
本作のテーマは「君子、危うきに近寄らず」という感じですね。生半可な気持ちで、怪異に向かい合うと痛い目にあいます。
ネタバレはしないようにあらすじを書いていますが、その中で、一つだけラストのクライマックスの大事な部分に触れている箇所があります。
それが、祖母が臨終間近の時に言ったセリフ、「尚哉(深町のこと)は育たんかもしれん、山神様にとられたから」です。深町は「何を」とられてしまったんでしょうか?
まあ、「そんなものでいいの? あげますあげます」というものでないことだけは確実ですね。この山神様にとられてしまうものを巡って、かつてないピンチに高槻と深町は陥るんですが……
ピンチへの立ち向かい方に、高槻と深町の間にあった大きな差が明らかになったな、と思いました。
うろたえる深町に、あっさりとどうするかを決めてしまう高槻。高槻はまるで危険な目にあうことも想定して、そうなった時にどうするかを前もって決めていたかのような即断ぶりでした。
そして、決断理由もいかにも高槻らしい、ちょっとエゴが入ったもの。一緒にそれなりの覚悟を持って調査をしに来た深町でなくとも「そりゃないよ」と言いたくなる危なっかしい理由です。
最初に読んだ時「やっぱり高槻は危なっかしいなあ」とその言葉を鵜呑みにした、のですが。
しかし、読み終わった後で、やはり何かがひっかかりました。
そして、よくよく考えてみると、この時の高槻の心情は、エゴだけではなかったのではないか、と思い当たりました。
高槻が危険をおかしてまで、あえて「死者の祭り」の調査に踏み切った最大の理由は、深町のためだったのではないか、と思います。
高槻は、自分が経験したと思われる怪異についての記憶がすっぽりと抜け落ちてしまっています。知ろうにも思い出そうにも、手掛かりすらほとんどない状況で、これまで生きてきました。それがどれだけ不安で、フラストレーションのたまることだったのかは、これまでのシリーズでも度々描かれてきました。そして、高槻はどんな不思議に思えることでも、何が起こったのか具体的に知ること、解釈が可能になることで、心が慰められるのだということもよく知っています。
だからこそ高槻は、深町が過去にケリをつけて、彼が前を向いて生きていけるように、危険を承知で怪異が待ち受けているであろう場所へ、あえて突っ込んだのではないか。
私はそんな風に考えました。
深町は多少の危険は承知だったでしょうが、高槻の方が予測も覚悟も、一歩先を行っていたなと思います。あるいはこれは、相手にどれだけの絆を感じているかの差なのかもしれません……
さて、とりあえず深町のターンはこの巻で決着がついたようです。次は、いよいよ高槻の番ですね。
高槻は深町に覚悟を見せましたが、果たして、その覚悟に深町はどう応えるのでしょうか……
いかがでしたでしょうか?
シリーズの6作目以降は別ページで、あらすじと感想をアップしています。
そちらも読んでみてくださいね。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!
よろしければ、感想など、コメントに残していってくださいね。
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3巻についてお問い合わせいただいたY様、こちらでのご返答いたします。
P115の「2人とも尚哉の事情は知っているし」の事情の内容は何か?ということでしたが、いろいろと読み返しましたが文脈上、「尚哉の耳の事情」というのが素直な解釈だと思います。
6巻目で改めて尚哉が佐々倉に「話しましたっけ?」と聞いたのは、「尚哉が自分から耳の事情を伝えたわけではないのに佐々倉が既に事情を知っているのは何故だろう?」という確認ではないでしょうか?
……あるいは、作者さんが佐々倉がいつのタイミングで尚哉の事情を知ったのか、という設定をあいまいにしてしまったために齟齬がでてしまったのかな……とも思います。作者さんも人間ですからね^^;
当ブログをお読みいただき、ご質問もいただきありがとうございました!
管理人より