ロスチャイルド家の繁栄はこうして築かれた、半分史実の小説『ザ・ロスチャイルド』読書感想

元ライターが作家目線で読書する当ブログへようこそ!

今回ご紹介する本はこちら↓

ザ・ロスチャイルド  渋井真帆  ダイヤモンド社

この本、「城山三郎経済小説大賞」(現在は廃止されています)を受賞し、

2013年に出版された本なんですが、

2021年現在、果たしてご存知の方がどれくらいいらっしゃるのか?

ググってみると本書と同タイトルの他の本が検索結果上位に表示され

Amazonのレビューにも辛口の評価がチラホラ。

何より正直な評価は2013年刊行なのにいまだに単行本のみで

文庫本化されていないところに表れています。

面白い本を見つけたいときは部数に注目しろ、は

多くの読書家が辿り着く共通の答えだと思うのですが、

それに基づくと、おそらくこの本は「面白くない本」と

判断されてしまうでしょう。

ところが、この本、読んでみると「かなり面白い」。

経済小説大賞なんて背負っているから難しい本かと思いきや

サクサクっと読めるし、主人公が成りあがっていく物語は

強い快感を感じることもできます。

経済小説で黒木亮、高杉良、真山仁などの重めの小説が苦手だという方や、

池井戸潤のようなライトな金融小説が好きだという方には

『ザ・ロスチャイルド』おススメです。

それではあらすじと共に本書の面白さをご紹介していきましょう。

目次   1.おおまかなあらすじ
     2.本書の半分は史実からできている
     3.性格の異なる2人の英雄
     4.それでも辛口評価の理由


1.おおまかなあらすじ

ナポレオンが大活躍していた時代のヨーロッパがお話の舞台です。

ユダヤ人であり、商売人の父を持つ

ネイサン・マイヤー・ロスチャイルドが主人公です。

彼は幼馴染であり恋人のエルザを

ナポレオン率いるフランス軍の侵攻によって失います。

ナポレオンを強く憎むネイサンに、英雄は

「男には力がいる。力とは拳、もしくは金だ。

それがなければ平伏するしかない」と言い放ちます。

ナポレオンのこの言葉を強く胸に刻み込んだネイサンは

大商人である父の金も権力も頼りにせず、

一人で商売の旗揚げをしようと、単身イギリスへ渡ります。

ネイサンは腕利き船乗りのカレン船長や、

大富豪の娘であり同じくユダヤ人のハンナなどの協力者を得ることに成功し、

様々な困難をアイディアで乗り切っていきます。

一方でナポレオンは自ら皇帝と名乗り、ヨーロッパ制覇への野望を燃やします。

ナポレオンは制海権を譲ろうとしないイギリスを弱体化させようと、

ヨーロッパ各国にイギリス製商品の輸入停止を命じ、

産業革命後に輸出で大儲けしていたイギリス経済の暴落を企みます。

ナポレオンは武力で敵わなかったイギリスに、

ネイサンの領分である経済で戦争を仕掛けてくるのです。

この後、ネイサンはナポレオンにも苦しめられ、

恋敵のイギリス経済界の大物からも苦しめられ、

大きなピンチを幾度も迎えることになります。

どうなる、ネイサン!?  

……とドキドキしたいところなのですが、

そうはなりません。

実は、物語の本筋が始まる前に、

既にネイサンがイギリス経済界でも超大物になった姿が

プロローグとして書かれており、

ネイサンが成功することは出オチ状態でわかっているのです。

「ネイサンはピンチをしのいで成功できるのか?!」ではなく、

「ネイサンはピンチをどうしのぐのか!?」が、

このお話の醍醐味になります。

2.本書の半分は史実からできている

あらすじでも書きましたが、『ザ・ロスチャイルド』は

主人公であるネイサンが将来、大成功を収めるシーンから始まっており、

彼が商人として成功できるかどうかは、読者に最初から分かっている

状態で物語がスタートします。

本当ならネイサンの未来がどうなるかを分からなくした方が

読者を楽しませる要素が増えるはずなんですが、

作者はあえて出オチを選びます。

というのも、「ロスチャイルド」の名からピンとくる方も

いらっしゃるでしょう。

本書『ザ・ロスチャイルド』は史実を元にした小説なんです。

ロスチャイルド家は、現在、金融業を中心に繁栄している一族の名前です。

ロスチャイルド家の歴史は長く、その繁栄の始まりは

18世紀を生きた「マイヤー・アムシェル・ロスチャイルド」からです。

主人公の名前は「ネイサン・マイヤー・ロスチャイルド」。

名前の響きからなんとなくわかる方もいらっしゃるでしょう。

ロスチャイルド家の繁栄の礎を築いたのは、主人公のお父さんなんです。

父・マイヤーには息子が5人おり、ネイサンはその三男でした。

父の代で既にロスチャイルド家はドイツのフランクフルトで大商売人となっていましたが、

ネイサンたちの代でその商売を全ヨーロッパに拡大することに成功します。

時代はちょうどナポレオンという嵐がヨーロッパ中を吹き荒れている時でした。

ロスチャイルド家はナポレオンの嵐に時に翻弄されながらも

巧みに利用もし、今にまで続く繁栄の基礎をがっちり固めたのです。

というわけで、本書の半分は史実で出来ており、

「ロスチャイルド」の名前をもつネイサンが破産するなんていう

「もし」は起こりえません。

大河ドラマや、歴史小説を読むような感覚でも本書は楽しめるんです。

3.性格の異なる2人の英雄

本書の主人公はネイサンですが、もう一人の主人公ともいえる人物がいます。

ナポレオンです。

作中、ナポレオンとネイサンは運命の出会いを果たしますが、

これはさすがにフィクションでしょう。

ネイサンが父親のような大商売人になる強い動機を作るために

出会わせたのだと思います。

2人はその後、ネイサンは経済、ナポレオンは戦場と

全く違う分野で野心を燃やしていき、

それぞれに超大物にのしあがっていくわけです。

『ザ・ロスチャイルド』は2人の英雄の物語でもあるんです。

しかも、この2人の英雄は性格が正反対。

ネイサンの方は思いやりがあり、困っている人がいれば

考えるよりも先に体が動くような、正義感の持ち主でもあります。

まっすぐな性格のネイサンは人に好かれやすく、

それが彼の商売が上昇気流に乗る助けにもなっています。

商売のやり方にもその精神は反映され、

筋の通ったやり方を好みます。

貧しくてロクな原料が買えないと嘆く職人に、

原料を買うお金を渡すネイサン。

職人からの「持ち逃げするとは思わないのか?」という問いに

「子どもがいる男は恥じるような行いをしない」とこたえ

証書も担保もとることをせず、後日見事に仕上がった布を

相場よりも安いけれど現金でその場で買い取ってやるんです。

めちゃくちゃいい男じゃないですか??(笑)

この人のためなら、と協力をしたくなるタイプです。

ネイサンはこの性格のおかげで人からの信頼という

何物にもかえがたい財産も積み上げていくことになります。

対するナポレオンはというと、いわゆる「オレ様」タイプです。

唯我独尊、傍若無人、自分至上主義。

側近のいさめる声なんて剣の一振りで黙らせます(こわっ!)

それだけの実力者であることは間違いないんですけどね。

カリスマではありますが物語の主人公になれるタイプではない

性格として描写されています。

ナポレオンの辿る運命は皆さん学校の歴史で嫌と言うほどご存知でしょう。

2人の英雄の結果の差は性格の違いによるものだ、と本書では表現してありました。

最後、その辺りのまとめをネイサン自身に語らせているシーンは

さすがにちょっと青くさすぎて笑ってしまいましたが、

ネイサンの主人公として、英雄としての魅力も本書の面白さの一つです。

4.それでも辛口評価の理由

ここまで、『ザ・ロスチャイルド』は面白い、という視点で語ってきました。

面白いと私は思っています。

しかし市場の評価は辛口です。

せっかくなので、その理由を考察してみました。

辛口評価の理由は、おそらく「主人公の敵」の設定がまずかったのかなと思います。

小説に限らず、映画や漫画などの創作物の基本は、対立です。

主人公には物語を通して、乗り越えるべき「敵」があるのが基本なんです。

主人公が四苦八苦しながら「敵」をどう倒すか、これが物語の面白さの源になります。

では『ザ・ロスチャイルド』のネイサンの「敵」はなんだったのでしょう?

「ナポレオンだ!」

そう言いたくなりますよね。私も読み終わるまで、そう思ってました。

でも、実は違うんです。

ネイサンの本当の敵は「大商売人になる」という夢が叶うかどうか、にあります。

物語の最初に、ネイサンは「ナポレオンに復讐するぞ!」と強く誓うシーンが

あるのですが、たぶんこのシーンがまずかった。

あまりにもネイサンの身に起こる事件を悲惨にしすぎて、

ネイサンがナポレオンに復讐したくなるのも当然だな、

と強く印象づけ過ぎたんです。

こうして読者は「ネイサンはいつかナポレオンをギャフンと言わせるに違いない!」と

ワクワク期待を持って読むことになります、が。

本当の敵はナポレオンではないために、なかなか期待していたシーンは到来せず、

しかもネイサンが戦う敵はナポレオンとは関係ない事件が多いため

ネイサンは一体何と戦っているんだ?と疑問を持つことになり、

結局最後まで読んでも「なんだか肩透かしだった」という印象で

終わってしまったのではないかと思います。

もうちょっと、ネイサンとナポレオンの出会いを違った形に変えれば、

ネイサンの成長物語にどっぷり漬かれて満足度が高まったのでは……?

とはいえ、これは編集者が本来気づいて修正を促すべき内容では?と思います。


いかがでしたでしょうか?

城山三郎経済小説大賞はこの『ザ・ロスチャイルド』を最後に賞自体が

なくなってしまいました。

もともと、主催のダイヤモンド社自体が小説に不慣れだったせいもあるのかなー……?

なんて、邪推をしています^^;

少し惜しいところはあるとはいえ、サクサク読める面白さと

史実を知れて勉強にもなり、見かけたらページをめくってみてほしいなと思います。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。

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