読書感想|夢中になる感覚を味わえます(鬼絹の姫、沢村凛)

元ライターが作家目線で読書する当ブログへようこそ!

今回ご紹介するのはこちら↓

鬼絹の姫 沢村凛 新潮文庫

『ソナンと空人』全4冊の2冊目です。

4冊中、一番ワクワクとした気持ちで読める内容だと思います。

1冊目の『王都の落伍者』をご紹介したときにはけちょんけちょんに

こき下ろされていた主人公も、成長を始めますよ。

それでは、これよりネタバレありでご紹介していきますね。


まずはおおまかなあらすじから。


六樽の七の姫と結婚し、領主となった空人は、輪笏(わしゃく)という

名の領土へ赴任する。

美しい大地に迎えられた空人は、ここで領主としての務めを精いっぱい果たそうと

決意する。

しかし、輪笏は10年間も領主が不在であり、前任者は良い領主とは思われていなかったため、

領地で出迎えてくれた役人たちの態度はよそよそしく、簡単に内情をうちあけてはくれなかった。

以前なら力づくでも従えようとしたであろうが、まずは信頼してもらうことが大事と、

空人はじっと役人たちが自分に心を開き始めてくれるのを待った。

その甲斐あって、空人は少しずつ、領地の状況を知ることができた。

そして、輪笏が財政上の大ピンチに陥っていることを

支出を抑えるのも限界、しかし収入を上げるための税金をあげることもこれ以上できない。

空人は、なんとしても輪笏の貧しい土地から新しい収入源を見出さねばならないのだった。

まずは前例なしと言われた、領土を隅々まで見て回ることを実行。

そして空いた土地の開墾や灌漑工事を行うための算段を取り付けたり、

鬼絹と呼ばれる美しい織布の原料となる糸の増産、織布を地産できないかと交渉し、

甘いお菓子を作り新しい商売を始められないかと画策してみたり、と

とにかく領地中を駆けずり回って財政を立て直していった。

周りの役人や側近は新領主の無茶ぶりに振り回され忙殺されつつも、

彼の必死の領地運営に理解を示し、文句を言いつつも楽しそうに従っていた。

忙しい空人の心を癒してくれたのは妻である七の姫であり、彼は愛情をこめて

彼女に「ナナ」という名前を贈った。

そして彼女の妊娠が分かり、幸せの絶頂にいたとき、空人の前に過去が

立ちはだかることとなる。

海を越えて交易を迫ってきた大国の1つに、空人がソナンとして生きていた頃の

故国があったのだ。

交易相手としては申し分ない故国だが、自分の正体がばれるのではないかと空人は

不安になる。

そして、故国の言葉を自在に操れることが露見してしまい、交渉の施設団の翻訳者として

空人として故国に向かうよう、命令が下ってしまう。

ばれなければ大丈夫……と自分に言い聞かせる空人だが、不安はぬぐい切れないのだった。


この先どうなるのか、無事戻ってこれるのか、気になる終わり方をしていますね。

主人公が故郷でどうなるのか、

それは3冊目で分かります。

今回は2冊目の紹介ですので、感想と主人公の変化について

書いていきます。

2冊目ですので、物語作りのセオリーから言えば、

主人公はやっと自分が取り組むべき課題を見つけ、

どうしたらいいか分からないながらも行動を起こし始める段階になります。

本作の主人公空人もそれにならい、1冊目では新しい世界を

訪れ赤ん坊のように戸惑ってばかりいましたが、

責任ある立場にもつき、「領地の財政を立て直さなければならない」という

目の前の課題に取り組み始めます。

その取り組み方や、まったく彼らしいやり方で、猪突猛進という言葉が

とても似合います。

思いついたことを片っ端から試し、悩むくらいだったら身体を動かす!

おかげで読者としては大いに楽しみ、登場人物たちは気の毒なほど

忙殺されています。

ちょっとブラック企業を彷彿とさせる突っ走り方を見せる主人公ですが、

その忙しさは例えて言うなら文化祭の前夜。

時間に追われて大変は大変ですが、心は浮き浮きと楽しく、

疲労が心地よい感じといえばいいでしょうか。

皆の目的意識が一つの方向に向かい、夢中になって取り組み、

気持ちの良い疾走感を感じさせる描写となっています。

本書での主人公は、貴族のろくでなしの坊ちゃんだった頃から比べると

責任を果たすために、何かをしなければならないという使命感に突き動かされて

怠け者だったころの自分とは決別することができています。

大きく成長したのか……!?

と期待したいところですが、本質の部分はまだ変わっていません。

思考が浅く、物事を単純に、甘く考えてしまい、来るべき最悪に備えるという

発想はゼロです。

まだまだ、甘やかされた貴族時代に足元は浸かっている状態ですね。

変わり始めたけれども、まだどう成長していったらいいかもよくわかっていない、

まさに物語の半分手前に相応しい状況になっています。

少しネタバレしてしまいますと、

この後の3冊目からは長く、苦しい道のりになりますので、

この2冊目で存分に生き生きと活動する主人公を満喫していただければな、

と思います。

いかがでしたでしょうか?

3冊目からはいよいよ、主人公の忍耐が試される、

人生の試練が待ち受けることになります。

主人公の本質も変わり始めますよ。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!

よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。

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