見抜けた人はすごい!ミステリ読みまくってる私にも全然わからなかった真相『両刃の斧』読書感想
元ライターが作家目線で読書する当ブログへようこそ!
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両刃の斧 大門剛明 中公文庫
横溝正史ミステリ大賞とテレビ東京賞をダブル受賞してデビューした作者によるミステリです。
ミステリと一口で言っても、誰が犯人かを追う「フーダニット」やどうやって犯罪が可能だったかを追求する「ハウダニット」など、いろいろ種類があります。本作はその中で当てはめるとしたら「ホワイダニット」、なぜ、そんなことをしたのか、という動機を問う物語です。
ミステリを読む時は自分なりに推理して読む派なのですが、本作に関して言えば、結論から言いましょう……
全然わからなかった!!^^;
そしてラスト20ページほどに凝縮された真相を読んで……
それはまったくの死角だった!!
本当に「え!?」って声をあげて何回か同じところを読み直して確認するレベルでした。これは読んでて見抜けた人はすごいです。意外過ぎる真相に驚きを感じたい方、おススメです。
それでは、あらすじと感想をまじえながら内容をご紹介していきましょう。
1.簡単なあらすじ
まずは簡単なあらすじからご紹介しましょう。
お話は15年前の過去に起きた事件から始まっています。
捜査一課の刑事・柴崎は捜査から帰る途中、凶報を受けます。2人いる娘のうち、姉の方が刺殺体で発見されたというのです。人望の厚かった柴崎の無念を晴らすため、懸命に捜査を行う捜査員たち。しかし、有力な目撃情報があったにも関わらず、迷宮入りとなってしまいました。
そして15年後の現在。
刑事である川澄は柴崎の娘の事件を気にかけ続けてきました。刑事として推薦してくれたのも、結婚相手を探してくれたのも柴崎。川澄にとって柴崎は大恩人であり、いつか柴崎の無念を晴らしてやりたいと思い続けてきました。
そんなある日、川澄は柴崎の娘の事件の有力情報を掴みます。川澄は柴崎のために、今度こそ犯人を捕まえようと未解決事件捜査チームに専従として入り、事件を追います。
そしてついに最有力の容疑者に迫ることが出来たのです、が……
2.この驚きを分かち合いたい
さて、ここからお話は急転、なんと容疑者が殺害されてしまうのです。
そしてその殺害容疑をかけられたのが柴崎であり、柴崎は全ての連絡を絶ち行方をくらましてしまうのです。
川澄は柴崎が刑事としての誇りと矜持を持った人物でありこのタイミングで音信不通の行方不明になること、すなわち逃亡犯のような振る舞いをすることに違和感を覚えます。しかし、それと同時に柴崎の娘を奪われた深い恨みも知っているのです。
本当に柴崎が容疑者を殺したのか?
なんで行方不明になったの?
いくつもの疑問を心に抱えたまま、川澄は柴崎を追うことになるのです。
しかし、この後ずっと柴崎を追い続ける物語になるのかと思いきや、いい意味で期待を裏切ってきます。まだお話も中盤だよ!? というタイミングで柴崎の身柄を巡った大きな盛り上がりを見せ、物語は思ってもみなかった方向に舵を切るのです。
本作の魅力はこういった展開の早さにあります。
序盤から小さな謎が提示されてはそれに対する解答が早め早めに展開されるを繰り返し、それでいて大きな謎である「柴崎がなぜ行方不明になったのか」や「柴崎の娘の事件の真相」はずっとぼやけたまま……早く全体像が掴みたくてどんどん読み進められます。
しかも作者さんのうまいのは、謎をぼやけたままにしておきながらも、さまざまな可能性をあげてくるところにあります。「この中のどれかが正解なのか?」「いや、さすがにこの中には真相はないに違いない」と知らず知らずのうちに「真相はなんだ?」と推理させられてしまいます。
そして最後20ページで、どーーん!! と意外過ぎる、可能性すら考えなかった驚愕の真相が明らかになるんです。
いろいろとミステリを読んできて、推理せずとも展開や意外性から「こういう真相に違いない」とある程度読めるようになってきた私ですが、本作は完敗、してやられました……
ぜひ、この記事に辿り着いてくださったあなたにも読んでみてほしい、そして一緒に驚きを分かち合いたい、そんな作品です。読めばきっと身近な人にすすめたくなると思います。
3.ものすごく高いリーダビリティ
意外過ぎる真相といったミステリとしての魅力の高さもさることながら、ものすごくリーダビリティが高く、「読みやすくする」工夫がいろいろと仕掛けられていたと思います。
まず、私の心を掴んだのは「作者独特のユーモア」でした。お話がミステリとして加速しだす前の序盤も序盤の辺りです。単なる登場人物紹介や状況説明になりがちな最初で、しっかりと読者の気持ちを掴みに来る文章力に注目してほしいと思います。
たとえば、川澄とその娘の間にある微妙な心の柵のようなものの表現の仕方がとても巧みです。刑事を父として持ったために自分は絶対に警察官にだけはならない! と言っていたくせに警察官になってしまった娘のことをゴルフの池ポチャに例えてみたり、自室に入ってほしくない娘が張り付けた張り紙に書かれている文言に対する父親の寂寥感のにじむ感想などなど……
思わずクスっと笑わせられて記憶にも残りやすい表現の数々に、緊張感が出る前の序盤でも楽しい気分で読むことが出来ました。
また、登場人物たちの性格の特徴が掴みやすく、いわゆる「キャラ立ち」しているのも楽しい気分を盛り上げてくれました。
登場人物の中でも魅力(というか生命力?)にあふれた人物として表現されていたのが川澄の娘、日葵(ひまり)です。一人娘ということもあり、川澄は娘のことを愛してもいるし心配してもいるのですが、日葵の方ではそうでもないようで、ちょっとした親子喧嘩をしてしばらくの間連絡がつかなくなったと思ったら「そんなところに女一人で行ってたんかい!」という場所をふらついていたりと、無鉄砲さや生意気さが目立つキャラクターをしています。
作中では、日葵が婚約者として一人の男性を川澄に紹介するのですが、この男性が日葵とは真逆のタイプの男性で、遠慮がちですぐに謝りの言葉が口をついてでる見ていて心配になるようなキャラクターをしています。
父親の川澄でなくとも「この2人、うまくやっていけるのか?」「無事に結婚まで辿り着けるのかな?」と不安になってしまいます^^;
一見、事件にはなんの関係もないように見える2人ですが、終盤では重要な役割が振られています。川澄との関係の変化にも注目しつつ、どう事件に関わってくるか、予想しながら読んでみてください(ちなみに私はこちらの予測も全然はずれていました……)
さらに、本作では善人と悪人の区別がはっきりとついた時代劇のような小気味良さだったりと、頭が理解しやすい設定を整えてくれています。
理解しやすいだけだとそれはそれで物足りない感じがするものなんですが、お話の主軸ともいえる事件の真相の部分を巧みに隠し続けているので、読みごたえも十分です。
イヤミスとか、人間のドロッとした部分が表現された作品が好きな人には物足りないかもしれませんが、人情味や思いやりを感じられる作品が好きな方にはおススメです。
いかがでしたでしょうか?
『両刃の斧』は意外過ぎる真相に驚かされるミステリでありながら、キャラ立ちした登場人物たちや作者独特のユーモアで読みやすく仕上がった小説です。警察ものにしてはライトで読みやすいので読書をし始めたばかりの方にもおススメできる1冊でした。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。
よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。