あの人が闇落ちの危機!? 恋も復讐も急展開の『ばけもの好む中将11 秋草尽くし』読書感想
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ばけもの好む中将11 瀬川貴次 集英社文庫
今は昔、平安京の時代を舞台に本物のお化けや妖怪を探して回る美貌の貴公子・宣能(のぶよし)と、そのお供をする下級貴族の宗孝のコンビが活躍するシリーズ11作目です。
シリーズも11作目になり、お話もかなり佳境に入ってきている感じがします。いつもならお化けの噂を聞きつけた主役2人が行った先でちょっとしたトラブルに巻き込まれて大騒ぎ……というわちゃわちゃした展開を楽しむお話が多かったですが、今回はしょっぱなから緊張感のある展開になっていました。
他にもお人好しすぎて恋とは無縁の境地にいた宗孝にもついに噂がたったりと、いろんな意味で心ざわめく内容になっていました。
それではあらすじと感想をまじえながら内容をご紹介していきましょう。
1.おおまかなあらすじ
今回は秋の草花の名前がついた7つの短編が収録されていました。それぞれの短編の内容は続いており、1作読むごとに少しずつ、少しずつ、宣能と宗孝にピンチが迫る……そんな緊張感のある展開となっていました。
竜胆の章
今宵も本物の怪異を探しに嬉々とした様子の宣能と、ため息をつきながらも付き従う宗孝が夜歩きをしています。2人の目指すは「火の玉」。怪異らしきものを発見し2人は後を追うのですが……
これまでのお話の内容を振り返り、おさらいも出来る内容になっていました。
桔梗の章
今宵も夜歩きに出かける宗孝。その目的はいつものように怪異探し……ではなく、なんと女性のもと。それも10人いる姉の誰かでもなく、仲良くしている宣能の妹・初草の元でもありません。宗孝にもついに恋の噂がたつのでしょうか……!?
撫子の章
初草のもとを訪れた宗孝。帰るときに、彼が落としていった文を初草は見つけてしまいます。思わず中身を見てしまった初草は心穏やかではいられません……
女郎花の章
宣能と初草の叔母であり東宮の母でもある弘徽殿の女御。悪霊に悩まされていた彼女は東宮にすすめられるがまま御祈祷のために寺を訪れるのですが、そこで彼女を悩ませていた悪霊の正体を知ってしまいます。
藤袴の章
偽の悪霊に悩まされていたと知り激怒した女御。復讐に燃える彼女は甥である宣能にその思いを託します。宣能は女御の願いを叶えるために、忌まわしいあの人間を呼び出します……
萩の章
弘徽殿の女御の怒りは収まることを知りません。彼女の復讐を代行する宣能。そんな彼のただならぬ様子に気づいたのはあの人でした……
尾花の章
残酷な復讐を望む弘徽殿の女御。怒りの炎が静まらない彼女を、宣能は復讐の場に連れ出してしまいます。これまでにない苛烈な復讐を考え付いた宣能、彼はこのまま一線を越えてしまうのでしょうか……!?
2.闇落ちの貴公子
あらすじを読んでいただくとわかる通り、本作は話が進むにつれて内容がどんどん暗く、そして緊迫した方へ向かっていきます。
その原因が弘徽殿の女御。この人は『ばけもの好む中将』シリーズの主要登場人物の一人です。宣能と初草の叔母であり、帝の妻であり東宮の母、時の権力者右大臣の妹。作中に登場する女性キャラクターの中で最高の権力を握っている女性でもあります。そして、たちが悪いことにその性格の悪さも最高を誇っています……
弘徽殿の女御を例えると「白雪姫の母」でしょうか。プライドが高く傲慢で、ちょっとでも気に入らないことがあるとヒステリックに反応する面倒な女性です。
その彼女が、今回、激怒するから大変です。
激怒した理由は当代随一の貴婦人である自分が貶められていたから、というもの。弘徽殿の女御がなんでそんな屈辱的な仕打ちを受ける羽目になったのか、という理由を知るにはシリーズをけっこうさかのぼることになるのですが、自業自得だとおもっておいて間違いないです。もちろん宣能と宗孝の主役2人も大いに関係しています。
自業自得ではありますが激怒した彼女はとっても厄介です。どうにかして怒りを収めるなり矛先を変えなければなまじ権力者であるだけに何をしでかすかわからない怖さがあります。
この弘徽殿の女御の怒りを収めるために動くのが宣能なのですが……実は女御が怒っている相手は宣能も旧知の人々であり身分や性別を超えた友人と言ってもいいくらいの人々なんです。
怒れる女御と、友人たちの間に板ばさみになった宣能。彼がどう動くのか……? というのが本作のクライマックスになっています。
女御様の本音は「罰は死あるのみ」です。宣能は女御の怒りをとくためにその手をどこまで汚すのか? まさか、闇落ちしちゃうの!? そんなハラハラ感を味わうことになりました。
でも、シリーズを読んできた人にはわかっていただけると思うのですが、宣能自身、素質があるというか、いつ闇落ちしてもおかしくない危なっかしさがある人物なんです。だから今回の展開は意外というよりは「いよいよこの時が来てしまったのか」という感覚でした。
しかし、スターウオーズのアナキン・スカイウォーカーにオビワン・ケノービという存在がいたように(こちらは救いの手は間に合いませんでしたが)、宣能にも彼を心から心配する人が何人かいます。宣能は闇落ちしてしまうのか!? ぜひ見届けてください。
3.宗孝の恋の噂
宣能の闇落ちほどではないですが、宗孝にもちょっとしたピンチが訪れます。
それが「宗孝にもついに恋人ができた!?」という噂です。
『桔梗の章』で詳しくは語られるのですが、これまで女性と言えば10人もいる姉、もしくは宣能の妹・初草しか縁がなかった宗孝。彼は両親や姉たちに「いい歳して……」とからかわれるほど奥手な男性でした。
その宗孝が「せっせと手紙を送ったり、大胆にも忍んでいくような相手ができたらしいぞ!」という噂が宮中でたつのです。
しかも、その噂が早々に初草の耳に入ってしまうのだから……これはちょっと不謹慎ながらニヤリとしてしまいました。これまで、明言すらされてはいませんでしたが初草の想いはバレバレ……彼女の初恋相手は宗孝です。当然、宗孝の恋の噂を心穏やかに聞いていられるわけがないのです。
今までの宗孝と初草の関係は優しい兄と良く懐いた妹という、ほのぼのとしたものでしかありませんでした。が、「これはひと悶着起きるんじゃない……?」とニヤついたのは私だけじゃないはず。
……という下世話な期待はあっさりとかわされるのです^^; が、それ以上の大胆すぎる展開が待ち受けていました!
この時代の女性、しかも高貴な女性が部屋の中に閉じこもってほとんどの時間を過ごし、たとえ外出しても決して外からは見えないような厚い垂れ幕で覆われた牛車での移動だったことを考えると「これはバレたら首が(物理的に)飛ぶんじゃない……?」と冷や冷やものでした……
宗孝と初草、2人のおままごとみたいな恋路を読んできた身としては「やらかしたな!」と宗孝の背中をバシバシ叩いてやりたいくらいです。次巻、これ以上にどんな進展が起きるのか、楽しみです。
4.次は宗孝の番か
本書で起きた事件や騒動は、本書の中でほとんど解決をみるのですが、1冊通して伏線が敷かれたことも見逃せません。
わざとあらすじには書きませんでしたが、本書の冒頭も冒頭、しょっぱなに不穏な動きがあります。その動きは本書の中では大きく動くことはありません。ただ、最後の最後に「これは次巻、命にかかわるような大きな争いが起こるのでは……?」と大きなつぼみをつけて終わります。
その不穏な動きの内容とは、宗孝に関するものです。
『ばけもの好む中将』シリーズには多分この人が「ラスボス」という大きな敵が存在しています。その敵が次巻は重い腰を上げてしまいそうな気配があります。その矛先が向くのは……宗孝か、それとも……
最初はお化けのしわざに思えるちょっとした事件を解決していくというお話で始まったシリーズですが、思えば遠くまで来たものです。大きく話がうねりだしています。
いかがでしたでしょうか?
シリーズも佳境に入り、恋もラスボスとの戦いも盛り上がってまいりました! ……というところで次巻に続いていましたので、早く次が出ないかなー?と楽しみになる内容でした。
ぜひ手に取ってみてくださいね。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。
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