金田一耕助のお財布事情とは!? ちょっと気になるプライベートもわかる『扉の影の女』読書感想

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今回ご紹介する本はこちら

扉の影の女  横溝正史  角川文庫

金田一耕助が登場する2作品が収録されています。

どちらの事件も一ひねり加えてあって、ミステリとして安定の面白さです。

が、それに加えて、表題作『扉の影の女』は金田一耕助ファンにはたまらん内容でした!

「金田一耕助すごい!」という登場人物たちからの尊敬と信頼を一身に集めて、ファンには自分も褒められてる気分になれます(笑)

さらに金田一耕助のプライベートにもかなり踏み込んでいて……!

金田一耕助シリーズが、もっと言えば金田一耕助が好きな方には特におすすめの1冊です。

それでは、あらすじと感想をまじえながら内容をご紹介していきましょう。

1.おおまかなあらすじ

まずは簡単なあらすじからご紹介しましょう。

『扉の影の女』

金田一のもとに一人の若い女性が相談にやってくる。とても困っている様子なのに、口が重い様子の女。金田一が話を聞き出すと、それも当然と思える困難な状況に彼女は陥っていた。

彼女は仕事から帰る途中、男にぶつかった。その男が落としていったのは血に濡れたピン、そしてその奥には彼女の恋敵が死体となって転がっていた……

恐くなって逃げた彼女だが、翌日、不思議なことに死体は全然別の場所で発見されたのだ!

事件解決のためには警察に昨夜、目撃したことを言うべきだ。しかし、警察に言ったところで自分が第一容疑者にされてしまうのではないか……?

悩んだ彼女は極秘に金田一のもとを訪れたのだ。

金田一は彼女が現場で見つけた謎の手紙にも興味を惹かれ、彼女の身の安全と身元の秘密を約束して捜査に乗り出す。

捜査を進めた金田一は、この事件が単なる恋愛のもつれ話ではなく、日本の闇社会にも通じる手がかりを見つけていくことになる……

『鏡が浦の殺人』

旅先のホテルでのんびりくつろいでいた金田一。ところが、そばにいた別の客が双眼鏡越しに見つけたのが犯罪の相談だったから穏やかではない。

その後、金田一は同行していた等々力警部と共にミスコンの審査員に引っ張り出されたりと、それなりに休暇を満喫するのだが……案の定、殺人事件が起きてしまう。

2.金田一耕助というキャラクターの奥深さ

金田一耕助といえば、横溝正史が生んだ名探偵です。金田一耕助の特徴は常によれよれの服に、もじゃもじゃとした頭に、興奮するとどもる癖……

さて、その他に彼のことをどれくらいご存知でしょうか?

金田一耕助の登場する作品は数多くあり、事件の捜査に勤しむ金田一なら皆さんよくご存じでしょう。

しかし、彼の私生活となると……どうでしょうか?

表題作『扉の影の女』では、作中で描かれることの少ない、金田一の私生活が少し、垣間見えます

例えば、金田一のお財布事情。金田一耕助って事件をたくさん解決していますが、それによってどれくらい儲けているのでしょう?

そもそも、現代でも探偵ってどれくらいの年収なのか想像もつかないですよね。それに金田一耕助って、警察の捜査の手伝いばかりしているイメージで、謝礼とか受け取っているんだろうか……?

考え始めるとキリがないですが、『扉の影の女』を読むと、その辺りのお財布事情がうっすらとわかったりします。

さらに登場する事件関係者たちから、金田一耕助への尊敬と信頼が集まることも特徴です。他のシリーズでも等々力警部を始め、警察関係者からはキラキラとした視線を送られている金田一ですが、今回はそれ以上に、皆に褒められまくりです。金田一耕助ファンの私にとっては自分も褒められているようなくすぐったい気分になれてお得な感じでした(笑)

特に良いシーンだなあ、と私が思ったのは、とある事件関係者との1対1の駆け引きのシーンです。

その事件関係者とは、できれば一生会うことはご遠慮願いたいタイプのご職業の方のようなんです……つまり、貫禄も威圧感も十分。そしてそれを裏づけるだけの金と権力の持ち主でもあるわけです。

その相手から金田一は一切引け目を感じることも、おじけづくこともなく、堂々と渡り合ってみせます。タヌキとキツネの化かし合い……というよりはもっと大きな動物同士のにらみ合いのような緊張感と迫力です。

互いの人間的な魅力、そして度量の深さを見せ合いながらの対決、普段はさえない金田一耕助の大物さがよくわかるシーンでした

そして、このシーンで金田一が案外金策に抜け目がないこともわかったりして……そんな愛嬌がにじみでていたのもおススメの理由です。

金田一はこうして時にすごみ、時に懐柔しと次々と登場人物たちから尊敬を勝ち取っていきます。そのお手並みや、アッパレ!です。

推理だけが金田一耕助の特徴ではない! いろんな金田一の側面を知られる、レアな作品でした。

3.事件を彩る不気味な仕掛け

『鏡が浦の殺人』にも触れておきましょう。

こちらはいつもの事件に遭遇してしまう金田一耕助の普通の(?)事件簿ですが、少々おもしろい仕掛けがしてあります。

それが「読唇術」です。話している唇の形を見て、なんとしゃべっているのかを見抜くという技術ですね。ミッションインポッシブルで(確か3だったかな……)トム・クルーズ演じる凄腕スパイが披露していました。

犯罪の相談をしているのを双眼鏡越しに目撃してしまう、というのが本作の冒頭のシーンです。誰が、具体的になんといっていたのか? が事件のキーポイントになったりするのですが、この読唇術という仕掛けが、何とも言えない後味の悪さを残しているなあと思いました。

犯罪の相談に気づいても、自分と相手の距離ははるか遠く……止めることも出来ず、警察に相談したところで「あなたの勘違いじゃないですか?」とでもあしらわれるのが目に見えます。

他のミステリでも読唇術を小道具にしたものは読んだことがないですが、不確実性といい歯がゆさといい……面白い演出の仕方だなと思いながら読んでいました。

他にも『鏡が浦の殺人』では事件が解決しても動機が最後まで不明だったり、その動機も共感ゼロのヤバすぎるものだったりと、後味の苦い感じや不気味さを感じてみてください。


いかがでしたでしょうか?

『扉の影の女』は金田一耕助の魅力を詰め込んだ良作ですが、ミステリとしてもなかなかです。犯人が誰なのか、どうして犯罪が起こったのかその動機が予測できず、終盤まで「どうなるんだ!?」と好奇心刺激されまくりでした。

ぜひ手に取ってみてくださいね。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。

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