読書感想|真性ってなんだろう?鬼灯の冷徹29(江口夏実)

元ライターが作家目線で読書する当ブログへようこそ!

地獄を舞台にしたギャグマンガをご紹介します。

鬼灯の冷徹29 江口夏実先生 モーニング(講談社)

毎度鋭い人間観察に感心するのですが、今回はディープすぎて理解できないところまで掘り下げてありました。

基本的に一話完結型なので、何話かピックアップして感想を書いていきます。

目次の2以降はネタバレありです。ご注意ください。

目次
 1.そもそも「鬼灯の冷徹」を読んだことがないという方へ、作品紹介
 2.第246話 仕事ができる奴は大概何かの真性
 3.第247話 接待
 4.第252話 難易度エクストリーム


1. そもそも「鬼灯の冷徹」を読んだことがないという方へ、作品紹介

鬼灯と書いて(ほおづき)と読ませます。

鬼灯はお盆の時に帰ってきた先祖の霊を導く灯のことをさしますが、この漫画では主人公の名前です。

鬼灯は地獄のエンマ大王の補佐官であり、実質地獄のNo2という偉い地位にある鬼で、事務も得意ですが交渉術も腕っぷしも最高レベルというチートな優秀さを誇っているキャラクターになっています。

この漫画では、鬼灯の目線で地獄や天国といったあの世の様子を面白おかしく描写しています。

アニメ化もされていますし、第1話の試し読みもできます。

試し読みはこちらからどうぞ

私は第1話を本屋で読んでお腹が痛くなりました。

人前で読むには要注意なほど面白いので、読む時は場所を選んで読みましょう。

この後はネタバレありですので、ご注意ください。

2. 第246話 仕事ができる奴は大概何かの真性

仕事ができる奴、といえば鬼灯ですが、今回のピックアップキャラクターは地獄のアイドル、マキとミキのマネージャーです。

マネージャーはこれまでも何度か出てきて、アイドルを徹底的に商品として搾取する姿勢に、彼女たちからは嫌われ、読者からはドン引きされてきたであろうキャラクターです。

そんな彼の詳細な一面が垣間見えるのがこの話、なのですが……

難しい!

彼の性格、難しいです。

前々からどうやらサディストであろうことはわかっていましたが、どうもそれだけではないようです。

そもそも、極端に嫌がらせをする、嫌がらせをされる、のどちらも可、という性格だったようで、真性、という表現が使われていました。

真性ってなんぞや?

と思ったので辞書をひいたところ、

①病気がほんもので疑う余地がないこと
②生まれつきの性質

だったので、この場合、②の意味でしょう。

まあ、芸能人とかがテレビ向けに「わたし〇〇好きなんで~」と無理矢理個性を作ったわけではなく、本当にそういう個性の持ち主だという意味なんでしょうね。

サディストにしろ、その逆にしろ、人間関係における立ち位置がどうなるか、ということで解釈すると分かりやすくなると思います。

他人をいじり、いじられたい、というのがこのマネージャーの性格で、極度にその傾向が強すぎてマキとミキは苦労させられるんでしょうね。

しかし、その極度ないじりが彼女たちの個性を引き出し、アイドルとしても成功させている、という、実力は本物なだけに縁も切りづらいという難しい関係ですね……

タイトルには「仕事ができる奴は大概何かの真性」とありますが、何かの欲求が強いほど、人間はそれを満たすために動き回る生き物だと思いますので、納得感があります。

研究者なんかを思い浮かべると、わかりやすいですよね。

知りたいという欲求をそのまま仕事にして、思う存分のめりこむ。

そんな典型的な研究者像はまさしく真性なわけです。

こういうのはわかりやすいですが、他人との距離感がある程度ないと嫌なタイプの私には、このマネージャーのように、人の領域にずかずかと踏み込んでいくタイプの人間はどうにも度し難い!

友人や家族が次に何を言う、どんなことをする、というのは大体の人が想像できると思うのですが、キャラクターを動かす時も作家は全く同じことをします。

このキャラクターだったらこう言うな、こんなことはしないな、そういうのを感覚的により分けて描写していくのですが、このマネージャーを動かすのは私には無理そうです。

次に何をやらかすか全く想像がつきません。

こういうのも日々の人間関係の中で培われていく経験値なので、もっと日常を大切にしないとですね。

3.第247話 接待

仕事上の関係でも、結局は人間同士の繋がりがものを言ったりするので、接待という文化は日本にはまだしっかりとあるようです。

この話は鬼灯の管轄外で、寒いのがウリ(?)の地獄で重鎮を務める気難しいおじいさんを接待する話です。

接待主はもちろん鬼灯ですが、彼は料理を用意するという口実で接待の席にはほとんどいません。

代わりに若くて美人の鬼(お香)と、聞き上手話し上手の女性の鬼(樒)、そして地獄の中でトップクラスに偉い裁判官の男性(五道転輪王)、と選りすぐられた3人が席に着いています。

お姉ちゃんと、ママと、取引先の偉い人、という高級クラブでありがちな光景ですよね。

ありがちな光景ではありますが、最近はいかにもな接待はハラスメントの対象になるのか、作中では接待する側の3人にはちゃんと了解をとってある、とわざわざ注釈が入ってました。

接待する側の完璧な布陣が面白かった話ですが、気難しいおじいさんも懐柔されて、気が緩んだところで……鬼灯の出番です。

接待会場に突如飛んでくる金棒。

おじいさんの後ろの壁に突き刺さり、場が凍ります。

料理をしていて手元が滑ったとわざとらしくやってくる鬼灯。

懐柔した後は怖いお兄さんまで登場する、こんなところまで高級クラブ風。

オチがわかりやすくて面白い、いい話でした。

4.第252話 難易度エクストリーム

ザ・今時なネタをもとにしたのがこの話です。

最近はスマホゲームで擬人化、美少女化がありとあらゆるものに及んでいますが、地獄でもそれを作ってみよう、というノリの話です。

結果、出来上がるのは何故かギャルゲー×ホラーゲーム、というオチなのですが、そこに行きつくまでのゲームの企画を作る過程が面白いと思い取り上げました。

ライターというと、文を書く人というイメージが先立ちますが、どんな文章を書くか、という企画をたてることも仕事の内です。

企画書には、どんな人に向け、どんなメッセージを伝えるのか、という内容が必須項目として入っています。

これはエンタメ作品に限らず、どんな商品でも同じことですね、ターゲットとする人物像があって、その人に何を売り込むのか、まずここを決めなければ企画は成立しません。

この話では、見事にその部分をすこーん!と抜かして、アイディア先行でゲームを作っていこうとするので、迷走に迷走を重ねてホラーゲームが出来上がった(誰がやるんだこんなゲーム?)、というダメダメの見本のようなネタでした。

もちろん作者である江口先生は大ヒット漫画を手掛けている方なので、先生の仕事は間違いなく真逆のやり方です。

しかし、このアイディア先行の企画は、けっこうやりがちな失敗でもあると思います。

アイディア先行でもいいんですよ、後でターゲット層やメッセージ性がしっかりと出てこれば。

それが出てこないのに行き当たりばったりで企画が先にたつと「やっぱだめなもんになるよなあ……」とわが身を振り返って大反省、という少々古傷に痛い話でした。

もしこれを読んでいる方の中に創作活動を行っている方がいるなら、まず! 誰に! 何を! 伝えるのかの部分をしっかりと考えて作品を作っていただきたいと思います。


いかがでしたでしょうか?

鬼灯の冷徹はギャグマンガですが、鋭い人間観察をネタに盛り込み、人の傲慢さや業を必要以上にさらけ出すことを売りにしています。

それまでの人生を赤裸々に振り返る、人生最後の裁判が行われる地獄だからこそ突っ込んでいける領域ですね。

正直に言うと、すぐにネタ切れしそうだな、と思っていた漫画ですが、あれよあれよというまにもう29巻!

1巻出すだけでも大変な漫画業界で読者に受けて納得感のあるネタを出し続けて29巻、すごいことですね。

また新刊がでたらご紹介したいと思います。

それではここまで読んでくださってありがとうございました!

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