ディズニーランドを日本に招いた男たちの人生が超ドラマチックだった『エンタメの夜明け』読書感想
こんにちは、活字中毒の元ライター、asanosatonokoです。
今回ご紹介する作品はこちら
「エンタメ」の夜明け 馬場康夫 講談社
さて、ここで質問です。
ディズニー、好きですか?
私は、そんなに好きではありません(笑)
そんなにディズニー好きではない私でも、ここは行ってみたかった!という場所があります。
そう、ディズニーランドですね。
これまでに5回ほど行ったことがあるでしょうか?
私以外にも「ディズニーはそんなに好きじゃないけどディズニーランドは行きたいし、行ったことあるよ」という方、けっこう多いのではないでしょうか。
ディズニーランドはアメリカや上海など、世界各地にあるそうですが私の過去5回のディズニーランド体験は全て東京ディズニーランドです。
ここで、そもそもの疑問を投げかけてみましょう。
「なぜ、東京ディズニーランドがあるのか?」
物心つけばディズニーランドが千葉にあった時代に生まれた私には完全に盲点だったこの疑問に答えているのが本書『エンタメの夜明け』です。
日本に世界一と言っても過言ではないエンターテイメントパークが建設された理由が知れるだけでも興味がそそられますが、本書はそれ自体が「完成度の高いエンタメ」と言っていい内容になっています!
「富士山とおじさん」という組み合わせの表紙絵から「少しかための本」のような印象を受けていましたが、意外や意外、ひきこまれるように読ませてくれる1冊です。
それでは、内容をご紹介していきましょう。
1.ディズニーランド誘致合戦
本書の冒頭は、本題のディズニーランド誘致から始まっています。
ディズニーランドあるのが当たり前世代の私は、当時の経緯も何も知らない状態だったので、まずこの誘致の話がとても面白かった!
「どうにか日本にディズニーランドを作ることをディズニー本社に認めさせたい!」
この願いを持ったのは日本の旧財閥である三井と三菱。いろいろな分野で競合しあっている2社ですが、ディズニーランド誘致でもぶつかりあっていたんですね。
名付けるならディズニーランド誘致合戦。
互いに千葉と富士山麓に候補地を決め、乗り気ではないディズニー本社の幹部たちをひとまず日本に呼ぶことには成功します。
さて、既に勝負の結末を知っている私。千葉を候補地に挙げた三井系列のオリエンタルランドが勝つことは間違いありません。
結末を知っている勝負にドキドキする人はそういないでしょう。
ですが、本書はそれでも大いに楽しませてくれました。
とにかく三井側の熱量がすごい!!
対比するためにあえての部分もあるのでしょうが、三菱側の「なんとなく……こんなもんでいいか」的なプレゼンに対して、三井の気合の入り方は段違いです。
ディズニー幹部たちの感心・関心を買うために、ありとあらゆる手を使います。
例えば、誘致のためのプレゼンとはいえずっと会議室に閉じこもって資料と話し合いにこもっているわけではありません。一見、誘致とは何の関係もない食事なんかにも気を遣わないといけないですよね。そこは日米の差があるとはいえ、接待のようなおもてなしが必要となってくるわけです。
ただディズニー幹部たちは忙しい合間をぬって来日しているわけです。ただ贅沢に食事を提供すればいいというものでもなく、限られたスケジュールの中で、誘致のためのプレゼンと接待をこなさなければなりません。
そのために三井がとったのは「候補地へ向かうバスの中で食事をしてもらう」というものでした。
え……? 全然接待になってない、むしろスケジュール詰め過ぎで心情悪くなっちゃうんじゃないの?
そんなツッコミが浮かんできますが、このバスの中の接待が素晴らしかった!
詳しくは本書を読んでほしいのですが「そこまでやる!?」なもてなしっぷりでした。接待って言葉は私はあまりいい印象を持っていないのですが(どうも密談・談合のにおいがする……)、ここまで相手のことを調べ尽くし思いやったおもてなしは結婚式や披露宴でもなかなか見られないのではないでしょうか。
ともあれ、三井側のプレゼンと接待はディズニー幹部たちの心をわしづかみにして、見事ディズニーランドが日本に建設されることとなったのでした。
本書の大体最初の1割程度のページをさいて、この誘致合戦の模様を大いに盛り上がる構成で紹介してくれています。
実は内容はそこまで期待して読み始めたわけではなかったのですが、ここでディズニー幹部たちと同様に私も心をわしづかみにされてしまいました。
いやあ、昔の日本人のビジネス魂というか、事業に賭ける熱ってすごかったんですね!
そんな熱量の持ち主たちの中でもひと際輝いて表現されていたのが堀貞一郎という人物です。
教科書には出てこないですが偉業を成し遂げたと言っていいこの人物、類まれなるユーモアとセンスの持ち主のように書かれていて、とても気になる人物です。
この人いったい、何者なんでしょうか?
その答えが、本書の続きに書かれていました。
2.日本エンタメ界の夜明け
冒頭のディズニーランド誘致合戦から、お話はぐっと昔にさかのぼります。
どの辺までさかのぼるかというと、日本でテレビ放送が始まる前、どころかラジオ放送すら始まっていない時代までタイムスリップします。
今ではテレビ以外にも、スマホやPCからプロから素人までいろいろな人々が視聴者を楽しませようといろんなコンテンツを披露してくれているので、そういう娯楽が一切ないってどんな生活だったのか、正直見当もつきません^^;
でも、なんとなくわかるのは、映像・音声による娯楽が一切ない生活にそれらが放り込まれた瞬間、めちゃくちゃ夢中になるだろうな! というのは感覚的にわかります。それこそラジオやテレビにかじりつくレベルだったんじゃないでしょうか。
本書ではラジオとテレビの放送開始と、それに伴う広告事業の夜明けの時代にざっと目を通していきます。
この辺りはどんどんと成長し巨大市場となるのがわかっている分野だけに、読んでいるこちらもかなり気分よく読むことが出来ます!
挫折を克服していく物語は感動しますが、成功体験の積み重ねのストーリーはものすごい快感を呼び起こしますよね。本当に気分よく読めて最高でした。
この成功ストーリーの中で、ディズニーランド誘致の立役者・堀貞一郎も登場するのですが、この時代は彼はまだまだ駆け出し中のひよっこ(誰もが最初は素人なんです)。
その代わり、この堀の師匠筋にあたり小谷正一という人物が大活躍するのですがこの人物もまた気持ちのいい人物なんですね。
印象的なのはマルセル・マルソー(パントマイムの達人)の心を掴んだエピソードです。
このエンタメ界の超大物の感心を買うために、小谷はマルセル本人ではなく、その夫人をターゲットにとある作戦を仕掛けます。
この作戦が凄い。
私も女なので、このサービスを受けたマルセル夫人の気持ちがよくわかります。こんなサービス、絶対に嬉しい!
詳しくは本書を読んでいただくとして「誰かを喜ばせる」才能にあふれた小谷の個性がよくわかるエピソードです。
どこかでマネしたい、いやマネされたい。
ここだけでも世の男性に読ませたいですね(笑) 意中の人を射止める作戦として参考になるかもしれませんよ。
こんな感じで、個々のエピソードも印象的で面白いものばかりで、成功ストーリーを賑やかに彩ってくれているので、それなりに文章量はあるもののすらすらと読めてしまいます。
3.成功を重ねついに……!?
ラジオ・テレビの黎明期のお話が終わると、本書の主人公の座は小谷から堀へと移り変わります。
堀がディズニーランド誘致の前にその名をあげることとなった「大阪万博」のエピソードを間に挟み(ちなみに大阪万博のエピソードも面白い、小谷・堀の人を楽しませる天才っぷりはここでも健在)、いよいよお話はディズニーランド誘致へと向かいます。
ここまで、ほとんどのエピソードが成功につぐ成功で、ただただ面白おかしく読めてきた本書。
しかし本題のディズニーランド誘致にきて、少々様子が変わってきます。
一言でディズニーランドを作るって言っても、当初はそれはそれはいろいろな問題が山積みだったわけです。
今でこそ当たり前のようにあるディズニーランドですが、よくよく考えればその土地には元々住んでいた人もいただろうし、海の近くだから漁業を始めとする海洋資源も豊富だったでしょう。
そこにドーンといきなり「遊園地を建てたいのでどいてください!」なんて言って、誰が賛成するでしょうか?
他にも、大きな仕事をするとなると邪魔をしてくるのはどこの世界にもいるもので、堀たちもディズニーランドを建設途中でもいろいろな妨害にあうわけです。
しかし、妨害にあえばあうほど、燃える人もまたいるわけで……困難を乗り越える情熱のストーリーが始まります。
これがまた実話とは思えないレベルなんですよね。現実は小説より奇なりを地で行くようなお話です。
さて、ここまで、本書の中身を簡単に追ってきたわけですが、お気づきになりましたでしょうか?
そう、本書は新書でありながら、その構成は小説をほぼ一緒です。
ディズニーランド誘致に成功するストーリーで読者をひきつけ(起)、そこから怒涛の成功ストーリーを披露し(承)、妨害にあいつつ(転)、ディズニーランドが完成(結)するという、実話を物語豊かに再構成してあるわけです。
これぞ、ザ・エンタメ。
「エンタメの夜明けを紹介するのにエンタメ性がなくてどうする!」という筆者の気概が感じられます。
そもそもお話として興味深いディズニーランド完成秘話を巧みな構成で魅せる本書、表紙の地味さからは意外過ぎるほど、本当に面白かったです! おススメです。
いかがでしたでしょうか?
普段は新書は読む機会がないという方にも、すらすら読めてしまうエンタメ性の高い本書はおススメです。
さらに、顧客の心を掴むあの手この手の工夫はビジネスパーソンにとっても参考になるものが多いと思います。
ぜひ手に取ってみてくださいね
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!
よろしければ、感想などコメントに残していってくださいね。