スリルある男たちの死闘とほっこりアイヌ文化、ぶれない魅力が最後まで面白い!『ゴールデンカムイ』読書感想

こんにちは、活字中毒の元ライター、asanosatonokoです。

今回ご紹介する作品はこちら

ゴールデンカムイ  野田サトル  ヤングジャンプコミックス

日露戦争後の北海道を舞台に、隠された大量の金をめぐった命懸けの戦いが描かれている漫画です。

アニメ化もされており、31巻で完結済みの作品です。

まだこの漫画を読んだことがないというあなた、ラッキーです。

なんでラッキーかというと、この漫画は一気読みが一番面白さを感じやすいからです

私はコミックスで読んでいたのですが、ヤングジャンプという雑誌は対象年齢が高めなせいか、話が複雑な作品が多いんですねー(『東京グール』はその代表ですね)

そのせいかコミックスである程度まとめて読んでいるにも関わらず、話の展開についていけなくなるという…苦笑

これ、連載で読んで意味がわかってた人、すごいです。

で、まあちょっと途中でコミックス買うだけ買って貯めてたんですけど、最終巻が出た後で一気読みして…ハマりました(笑)

面白いですね。中弛みなんて一切なし! スリルある展開と独特のギャグであっという間に読み終わってしまいました。

というわけで、完結済みの『ゴールデンカムイ』めちゃくちゃオススメです。

その理由をあらすじや感想をまじえつつ、ご紹介していきましょう。

1.簡単なあらすじ

まずは『ゴールデンカムイ』の簡単なあらすじからご紹介しましょう。

主人公は杉元佐一という青年で、彼は日露戦争で鬼神のごとき働きを見せた優秀な兵隊です。杉元の顔は傷だらけ、一目で彼がとんでもない修羅場をくぐってきたことがわかります。

ついたあだ名は「不死身の杉元」。

軍隊にとっては英雄と言っていい存在の杉元ですが、戦後はなぜか北海道へ渡り砂金掘りへと転身します。

杉元佐一

「金が必要なんだ」

杉元には同じ部隊にいた幼馴染がいましたが、幼馴染は戦死。彼が故郷に残した妻は目を病んでしまい治療には大金が必要です。

「妻を頼む」という幼馴染との約束を守るため、杉元は一獲千金を狙ってゴールドラッシュ後の北海道へと渡ってきたのでした。

そんな杉元に一人の男が「面白い話」を聞かせます。

「この北海道のどこかに、アイヌたちが貯めこんだ大量の金がごっそり隠されているらしい」

「隠し場所を知っている奴は網走監獄にいる」

「そいつは同じ部屋になった死刑囚たちの体に、隠し場所のありかを記した暗号を入れ墨で掘りこんだ」

「そして死刑囚たちをそそのかして脱獄させ、大金のありかを外に伝えたのさ」

酔っ払いながらそう語った男の話を、最初は信じなかった杉元でしたが、その後熊に襲われ殺されたその男の体には謎の模様が彫り込まれていました。

アイヌが隠したという埋蔵金の話は、本当なのかもしれない……

杉元がそう思った時、熊が襲い掛かってきて、間一髪のところを救ったのはアイヌの少女・アシリパでした。

アシリパは自分の父親が埋蔵金を集めたアイヌの一人だと言い、杉元はアイヌの埋蔵金が実在すると確信します。

そして、埋蔵金騒動に巻き込まれて死んだ父親の真実が知りたいというアシリパを相棒に、杉元の埋蔵金探しが始まったのでした。

2.複雑にからみあう思惑、一気読み推奨のストーリー

さて、不死身の杉元とアイヌの少女アシリパという、見た目も素性も凸凹なバディが誕生しました。

コミックスの表紙で言うと、1巻目が杉元、2巻目がアシリパのイラストになっています。一人はごつい青年、もう一人は(見た目は)可憐な美少女……街中で見かけたら二度見しちゃいそうなコンビですね。

この凸凹コンビが埋蔵金を狙って、網走監獄からの脱獄犯を探すのが序盤のストーリーになります。

しかし、莫大な埋蔵金の噂をかぎつけたのは杉元たちだけではないようで……

この後、どんどんと埋蔵金を巡るライバルたちが登場します。

この敵キャラたちも不気味だったり、歴史のもしものロマンを感じたりと、魅力的なんです。

主だったライバルの一人が陸軍第七師団の鶴見中尉です。コミックスで言うと彼は4巻目の表紙を担当していますね。もはやキャラデザは人間というよりフランケンシュタイン……。戦争中に頭に弾丸があたって一部が吹っ飛ばされたために仮面をつけている、という設定(だったはず)です。

鶴見中尉はその奇怪な見た目からは思いも寄らない「人たらし」の技術の持ち主で、類まれなるカリスマとして第七師団に君臨している存在です。鶴見中尉の元には彼のためなら命を捨ててもいいと思っている忠実で優秀な部下が何人も揃っています

その団結力と死をも恐れぬ軍隊が、埋蔵金を狙って杉元たちと死闘を繰り広げる様子は息をのむほどのスリルと凄惨なシーンの連続です!

残酷描写が苦手な人にはおススメできないほどの迫力ですが、本気の命のとりあいが表現されている戦闘シーンは目が釘付けになるスリルを味わえます。ぜひ、味わってみてほしい面白さです。

そして、もう一人の主なライバルが土方歳三です。

「あれ?」と思った方、正しいです。史実によれば土方歳三は日露戦争前には既に死亡しています。死亡した場所は函館だと言われています。しかし、そこは漫画、「北海道で散ったはずの土方歳三がもし生きていたら……?」そんなもしもを叶えてくれました。これぞフィクションの醍醐味!

コミックスで言うと、彼は3巻目の表紙を担当しており、もうおじいちゃんなキャラデザですね(笑)しかし男前だった土方歳三、おじいちゃんになってもイケメンな感じで描かれております。

土方歳三も何が目的かはわからないけれど、埋蔵金を狙って智謀策謀をめぐらせてくる強力なライバルになります。

杉元・アシリパ組、鶴見中尉率いる第七師団、そして土方歳三一派。埋蔵金を狙う主な3組が入れ墨を彫られた囚人を巡って死闘を繰り広げるのがメインストーリーになっています。

三つ巴だけでも十分面白そうですが、それぞれの派閥も一枚岩とはいかないのが、『ゴールデンカムイ』をよりスリルある作品に仕立て上げています。

カリスマ的魅力のある鶴見中尉ですが、部下からは裏切り者がでることもあれば、「鶴見中尉は自分たちを捨て駒としか思っていないのではないか……?」と疑問を持つ部下もいます。土方歳三にしても信頼できる人材ばかりが集ってくるわけではありません。

そんな、腹に一物持つキャラクター達がどう動くのか……? 様々な思惑が絡み合い、いつ背中を刺されてもおかしくない緊張感が漂っているのも、『ゴールデンカムイ』の面白さです。

私はあまり記憶力がよろしくないので、こういったややこしいストーリーはなかなか覚えていられません(笑)コミックスベースで読んでいたので、次の巻が発売されたころには前の巻のストーリーを忘れてしまっていたりして、よく「何が起きてたんだっけ……?」と迷子になっていました(苦笑)

それだけややこしいということは、しっかりストーリーを追っていけば逆に「めちゃくちゃ面白い!」ということでもあります。実際に、完結後に読み返したときは一気読みの内容でした。

読むならまとまった時間が取れる時に「一気読み」、これをおススメします。

3.ギャグも面白い! 変人の宝庫

埋蔵金をめぐる男たちの死闘に絡み合う思惑というスパイスを添えて、緊張感のあるストーリーを生み出している『ゴールデンカムイ』ですが、ここで誤解のないように言っておきますと、

ギャグもめっちゃ面白いよ!

ストーリー自体は緊張感があっても、その合間にはギャグシーンも(かなり、いやけっこう大量に)挟まっています。

このギャグがまた……『ゴールデンカムイ』でしかできないような独特さなんですよね。

そもそも、この漫画に登場するのは軍人(元も含む)、アイヌの人々、脱走した囚人たちの3パターンがほとんどです。囚人のカテゴリーに属する人々に単なるいい人が少ないことは、なんとなくお察しですね。

この脱走した囚人たちの濃ゆいこと濃ゆいこと……個性が強いという言葉では足りません。

入れ墨を彫られて脱走したのは全員死刑囚ということで、本当にろくでもない事件を起こした奴らばかりです。

『ゴールデンカムイ』では「彼らがなぜ、そんな犯罪を犯したのか?」にもきちんとスポットライトを当ててくれるのですが、それにしたって常人には共感しろっていうのが無理難題な過去話が多かったような^^;

例えば、弟が必死の抵抗をみせながらも熊に食い殺されるところ一部始終を目撃してしまったがゆえに、連続殺人鬼となった男とか……壮絶な過去の持ち主であることは認めますが「なんでそうなった?!」な思考回路の持ち主です。

とにかく絶対近寄りたくない人たちばかりな脱走した囚人たちですが、彼らの体にお宝のヒントが隠されているんだから追いかけるっきゃない。

おかげで、何パターンもの奇人・変人を読むことになりました。

しかし、この奇人・変人が突き抜けた個性の持ち主で、その個性をギャグな演出で読ませてくれるから、「キモイ」と思いながらも「なんだかんだ笑っちゃう」シーンに出来上がってるんですよね。

ノリやキモさが苦手な方は読み飛ばすでいいと思うのですが、ここまでいろんなパターンの奇人・変人を思いついた作者さんがすごい。そして、たぶん描いていた間はメチャクチャ楽しかっただろうな、とも思いました(笑)

ちなみに、奇人・変人の見本市みたいな『ゴールデンカムイ』にイケメンはほとんど出てきません!(一応、主人公の杉元佐一はイケメン設定ではある)

個人的にはそこは少し残念なところ……アシリパさんが可愛いからいいか。

4.アイヌの小話と飯テロ

もう一人の主人公アシリパさんがアイヌということで、『ゴールデンカムイ』にはアイヌ文化の小話もふんだんに取り入れられています。

狼や熊といった大自然の猛獣たちをアイヌの人々は神と思い、大切に考えていること。

生きるために狩りをして、狩った動物たちは骨や皮まで利用しようとする考え方。

北海道の厳しい冬を生き抜くための、祖先から伝わる多くの知恵。

それらの一つ一つは現代人には新鮮で、そして神聖なものに感じられます。

今となっては知ることも難しいアイヌ文化に触れられるのも、『ゴールデンカムイ』ならではです。

そして、アイヌ文化のなかでも特に力を入れて紹介しているのが「ご飯」です。

アシリパさん、弓の名人で、めちゃくちゃ狩りが上手なんですけど、ものすごく食いしん坊なんです(笑)

いろいろな動物を見かけては「あれは煮ると美味い」とか「生でも食べられる美味さ」といって、囚人たちを追いかけるのを中断してまで狩りに行っちゃったりします。

そして毎度それを食べさせられるのが杉元というわけです。

アシリパさんの振舞うアイヌ料理を杉元の感想をもとに想像しながら味わうことになるんですが、けっこう美味しそうなんですよね。

中にはそれって本当に食べて大丈夫なの……? という調理方法や食材もあったりするんですが(リスの皮をはいで叩き潰したものとか……)杉元の感想によれば、ほとんどのアイヌ料理は「美味しい」そうです。

ちなみに、本当にイマイチ好みに合わない時もあるようで、そんな時に見せる杉元の表情と「本当に美味しいとおもって食べてんのか?(怒り)」と食べ終わるまで鬼のような表情で睨みつけるアシリパさんという構図のコマ、私は好きでした。シュール。

ちょっと小話 アイヌ文化を知りたい方へ

『ゴールデンカムイ』をきっかけにアイヌ文化に興味を感じた方も多いと思います。

お手軽にアイヌ文化について学ぶなら青空文庫の知里真志保(ちりましほ)の著作がおススメです。

知里真志保はアイヌ語学者で、アイヌ文化やアイヌ語の研究・著作に貢献し朝日文化賞を受賞しています。

青空文庫では彼の著作が簡単に無料で読めますので、興味のある方はぜひ。

5.読み切った直後の感想は「面白い!」に尽きる

最後に『ゴールデンカムイ』を最後まで読み切った私の感想を書いておこうと思います。

めちゃくちゃ面白かった!!

語彙力が仕事をしていない感想で申し訳ないのですが、とにかくこの一言に尽きます。

『ゴールデンカムイ』のいいところは、最初から最後まで、作品の面白さが決してぶれなかったところにあると思います。

埋蔵金を巡った男たちの命がけの死闘。

キャラクター達の思惑が戦場の混乱に拍車をかける展開。

そしてアイヌ文化を尊いものとして敬う気持ち。

この記事の中でもご紹介した魅力が、ずっと作品を貫いていました。

特によかったなと思うのがキャラクター達も自分の信念を貫き通していたことですね。

杉元佐一であれば、彼がそもそも埋蔵金を狙う理由は「幼馴染との約束を果たす」ことにあるわけです。杉元は埋蔵金を巡る戦いの中で、アシリパという相棒を得て、他にも多くの出会いを果たすのですが、根底にある動機は片時も忘れることがありませんでした。

杉元に友情以上のものを感じていたらしいアシリパにとっては、杉元の胸の奥に絶対に自分には見せない大事なものがあるというのが、時に悩みの種となっていたようですが、そこがまたアシリパの切なさと杉元の鋼の意志を感じさせて、深い感動へまで連れていってくれたな……と最終話から2話前くらいのクライマックスのシーンを読んでいて感じたことでした。

荒木飛呂彦先生の『ジョジョ』シリーズにも通じるものを感じますね。『ジョジョ』もキャラクターたちの決して自分の意志を最期まで曲げない強さが魅力の漫画です。

意志を捨てられないがために、失うものもまたあると思うのですが、その悲劇もまた大きく心を揺さぶられる理由の一つかなと思います。

読んでいると奇人・変人が次から次へと登場するわ、ここではとても文章にできない下世話なギャグもあるわで、正直最後に泣くほど感動するとは思わなかった作品です(笑)

いい意味で裏切られますので、読み始めたらぜひ、最後まで読んでみてください! びっくりするから!(笑)


いかがでしたでしょうか?

『ゴールデンカムイ』は男たちの死闘、裏切り上等のスリルある展開、その合間の個性派ギャグとほっこりアイヌ文化に彩られたとても面白い作品です。

ぜひ手に取ってみてくださいね!

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました。

よろしければ感想など、コメントに残していってくださいね。

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