日々是好日
戦国時代からつづく日本文化であるお茶を25年間習い続ける中で学んだこと、気づいたことをつづったエッセイです。著者は森下典子さん、新潮文庫から出版されています。ちょうど、樹木希林さんがお亡くなりになったころに、映画が封切されており、その予告映像がとてもいい感じだったので原作を読んでみたいと手に取った1冊です。期待を上回る、とても素晴らしい本に出会えたと思います。
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お茶は日本の伝統文化ですが、実際にお点前を飲んだことのある人はそんなに多くはないと思いますし、自分でお点前をしたことがある、という方はもっと少ないと思います。お茶の本なんていきなり読んで大丈夫かしら?と思っても大丈夫です。この本は、ずぶのお茶素人で、かつ、(著者の主観によれば) お茶の才能なんてない一人の女性が等身大のお茶に対する感想をつづる所から始まっていますので、なんにも構えずに読むことができます。小難しい作法についての語りがでてきたらどうしよう、なんて心配することは一切ありません。
著者がお茶を始めたのは、「なんとなく」という動機以上のものではないと記しています。それに始めた当初はもう愚痴だらけで(笑)、よくもまあ、お茶を続けていく気になったものだ、と読者が心配になるくらいです。しかし、その後、著者は少しずつ、お茶の世界に親しみ、あれこれ発見したり、成長したりしていきます。その気づきも、お茶菓子が美味しいとか、掛け軸の文字が読めるようになった、とかいう読者目線の気づきから記してくれていますので、読者も自然に疑似体験を楽しむことができます。
半分くらいは著者と読者の目線が同じくらいのレベルの話が続くのですが、後半から奥深いお茶の世界、そこから見えてきた四季折々の変化や生きることへの洞察へと話が深化していきます。
人生は万事塞翁が馬、という言葉にある通り、著者は25年間に様々な経験をします。立ち直れないほどのショックを受けたであろうという出来事も含まれていますが、お茶の世界は著者にひっそりと寄り添い、前を向くきっかけを与えてくれています。
どうしてたかがお茶が? と読む前はわたしも思いました。しかし、お茶の世界と言うのは意外に静かな世界観の中に、情熱を秘めたものなのだとこの本を読んで気づきました。
何か一つの事に心を傾けること、それがスポーツや恋ならば情熱的という言葉もピンとくるでしょう。しかし、お茶というものはひたすら心を傾けることにおいてはそれらのものにもひけをとることはないのだと教えられました。それは静かに、ただそのお茶の時間の中でお湯を沸かし続けるちろり火のように、小さいけれども燃え続ける情熱なのです。
なにかに心挫けそうなとき、人生にダメージを与えるほどショックなことが起きた時、ぜひ、読んでみてほしい本だと思います。
読んでくださってありがとうございました!