もっと優しくして
小説風育児日誌です、どうぞ!
「すごい怖いものに変身して!」
突然の息子のお願いに、具体的にどういうものになってほしいのかよく分からず聞き返した。
「すごい怖いものって何?」
「うーん…ライオンとか、恐竜!」
すごく怖いものの例を聞いてなんとなく分かった。息子にとって大声をあげるものが怖いものらしい。
「ふむ、わかった」
「わーい、じゃあ逃げるよー!」
息子は室内用の三輪車に乗って逃げ出した。適当に距離を空けてから追いかけていく。
「がおー!」
「わーわー! 恐いよー!」
息子は笑顔で嬉しそうに逃げている。しかし、そんなに広くない室内、あっという間に玄関で行き止まりになってしまった。
ここで止めても良かったのだが、いたずら心に火がついてしまった。
「ふふふ……行き止まりだぞー! 食べちゃうぞー!!」
がぶ、と言いながら両手で頭を挟んでもしゃもしゃと食べる真似をする。
「うきゃー! きゃーきゃー……」
最初は喜んでいたが、がおがお言いながら食べられる真似をされるのは、怖くなってきたらしい。息子の声が徐々にしぼんでいくので、やりすぎた、と頭をなでてごめんね、と言う。
すると息子は、ううん、大丈夫と言いながらもこう訴えた。
「……もっと優しい、少し怖いものが良い」
どうしろというんだ、とも言えず私が固まっていると、息子はちらりとヒントを出してくれた。
「……やさしいお化けさんがいい」
怖さの基準というのは人それぞれだ。私に言わせれば実体のないもののほうがよほど怖いと思うのだが。
「じゃ、じゃあ、ばけばけ~、お化けだよ~」
「わーい、お化けさんだー」
あまり怖くないお化けの登場に安心した息子は玄関から折り返してまた嬉しそうに逃げ出した。
しかし、この後5分もしないうちに「やっぱりもっと怖い方がいい!」とか言い出すから子供心というのは不思議なものである。
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