読書感想|猫と小説が好きな人にはたまらない、通い猫アルフィーの約束(レイチェル・ウェルズ)
元ライターが作家目線で読書する当ブログへようこそ!
通い猫アルフィーの約束 レイチェル・ウェルズ ハーパーBOOKS
イギリスより海を渡ってやってきた、素敵な猫の小説をご紹介します。
愛らしい猫、アルフィーが主人公のシリーズで、本書で5作目になります。
「通い猫」という耳慣れない言葉も使われていますし、シリーズ1作目を再読するのはずっと先のことになりそうなので、
シリーズ全体の紹介もさせていただこうと思います。
それでは、愛らしい猫の世界へご案内です!
目次
1.通い猫アルフィーシリーズとは
2.『通い猫アルフィーの約束』のおおまかなあらすじ
3.アルフィーシリーズ独自の魅力とは
2以降はネタバレありです、ご注意ください。
1.通い猫アルフィーシリーズとは
舞台はイギリス・ロンドンのエドガー・ロードという住宅地です。
そこに住む一匹の雄猫・アルフィーが主役です。
アルフィーは元々、エドガー・ロードから離れたところに住んでいました。
元の飼い主は老婆で、アルフィーを可愛がっていましたが、ある日死んでしまいます。
生まれてからずっと人の手で大切にされ、家から出たことなんてなかったアルフィーは、突然独りぼっちになってしまいます。
都会のロンドンの街中に放り出され、眠る場所を探す方法も、食べ物を探す方法も知りません。
途方にくれたアルフィーが、命からがら、へとへとになりながらもなんとか辿り着いたのがエドガー・ロード。
そこには、寂し気で、悩みを抱えた人間がたくさん暮らしていました。
アルフィーは決意します。
もう「飼い猫」になるのはうんざりだ。だって飼い主が死んだらまた独りになってしまう。
いくつもの家を持ち、通い続けることで餌と寝床を常に確保できるようにする、「通い猫」になるんだ!
アルフィーはそれから、いくつもの家を行き来して、寂しい人間の心を可愛らしい外見や仕草、時にはネズミの贈り物(!)で癒し、3つの家を持つことに成功します。
無事通い猫になれたアルフィーですが、人間の世界は常に問題だらけ。
ろくでなしの恋人に苦しめられたり、失恋の悲しみが癒えなかったり、育児ノイローゼだったりと、大好きな飼い主たちのピンチに、アルフィーは毎度いろいろな作戦をたてて、皆が幸せになれるように奮闘します。
アルフィーはそのために毎度、少し危ない目に遭ったりします、が……
最後はいつもハッピーエンド!
そんな可愛くて賢く優しい、アルフィーが主役の心がほっこり暖まるお話、それが通い猫アルフィーシリーズです。
2. 『通い猫アルフィーの約束』のおおまかなあらすじ
シリーズ5作目の「約束」はどんなお話でしょうか?(これ以降ネタバレありです、注意してください)
シリーズ開始当初は子猫だったアルフィーも立派な大人猫になり、恋人のタイガー、息子のジョージという家族を持ち、毎日育児と格闘しています。
飼い主の3組の家族は、思春期のアレクセイが家族とギクシャクしているくらいで特に問題なく、エドガー・ロードは今日も平和…だったのですが、1組の親子が引っ越してきたことでにわかに騒がしくなります。
母親・シルビーとその娘・コニーは、父親の浮気が原因で離婚し、日本から故郷であるイギリスに帰国してきたばかり。
シルビー親娘は毎日泣いて暮らしているような状態です。
心を痛めたアルフィーとその飼い主たちは、彼女たちをエドガー・ロードの一員として温かく迎えようとしますが、コニーとアレクセイが恋に落ちたことから事態は急変。
子供たちに恋はまだ早い!とシルビーは過剰に反応してしまい、心を閉ざしてしまいます。
想いあうアレクセイとコニーの交際を、シルビーも認めてあげてほしいと願うアルフィー。
しかし、アルフィー自身にも重大な問題が発生してしまいます。
恋人であるタイガーが余命短いと判明してしまったのです。
日に日に弱っていくタイガー。
そして、母猫との別れを突き付けられた息子のジョージは混乱し、アルフィーを避けてしまいます。
ジョージの心に寄り添ってやりたいアルフィーですが、自分も深い悲しみに囚われてしまい、いい方法など思いつきません。
やがて、タイガーとのお別れの日がやってきてしまいました。
アルフィーとタイガーとジョージ、最期に親子水入らずでお別れをし、タイガーは逝ってしまいます。
アルフィーとタイガーは約束します。
「これからも人間や猫のために計画を立て続ける」
アルフィーは旅立ってしまったタイガーのためにも、シルビー親娘を救うことを決意します。
そしてクリスマスが迫る中、アレクセイとコニーが交際を認めさせるため、行方不明事件を捏造しようと馬鹿な計画を立てていることに気が付いたアルフィーは、どうにかそれを阻止し、幼い恋人たちの真剣な思いを大人たちに気づかせることに成功します。
シルビーは娘を追い詰めてしまったと、アレクセイとの交際を認め、エドガー・ロードにも穏やかなクリスマスがやってきました。
3.アルフィーシリーズ独自の魅力とは
猫が重要な役割を果たすお話といえば、ぱっと思いつくのは夏目漱石の『吾輩は猫である』や赤川次郎の『三毛猫ホームズシリーズ』でしょうか。
『吾輩は猫である』は終始猫の視点で、個性あふれる人間たちの交流を客観的に観察し風刺がきいた小説で、
『三毛猫ホームズシリーズ』は賢くプライドの高い猫が飼い主の刑事の難事件解決を助けてやってるという、ユーモアあるミステリ小説ですね。
どちらも猫は賢く、人間の短所が強調されるような描写になっています。
アルフィーシリーズもその点は同じで、主人公のアルフィーは賢く、人間はよく問題を抱えてアルフィーの心と頭を悩ませることばかりです。
この辺りは猫が出てくる小説のお約束なのかもしれないですね。
アルフィーシリーズ独自の魅力はといえば、まずはアルフィーの可愛らしさでしょうか。
アルフィーは自分のことを「とっても可愛い猫」だと自覚しています。
だからここ一番、人間に気に入られたいときは毛づくろいを入念にしたりと、少しあざといです笑。
また、アルフィーは人間のことが大好きで、思いやり深い性格として描かれています。
過去に捨て猫状態になってしまった独りぼっちで辛い経験が、彼のこの個性を伸ばしたきっかけになりました。
アルフィーがたてる計画の数々は無謀で「やめなさい!危ないでしょ!」と言いたくなりますが、大好きな人間のためかと思うと、いじらしく、ぎゅっと抱きしめたくなるような衝動に駆られます。
こうしてみると、アルフィーシリーズでは、人間の「猫はこうであってほしいなあ」という願望をよく反映させてあるなあと思います。
私は猫を飼ったことがないので、実際の猫と人間の暮らしがどのようなものかは想像するしかないのですが、アルフィーみたいに人懐っこく、賢く可愛い猫なら是非飼ってみたい笑。
また、猫独自の世界を丁寧に描いてあるのもシリーズの特徴です。
アルフィーは雌猫に恋をして、猫の集会場にも度々顔を出し、社交デビューしています。
離れた通りにも親友の野良猫・ゴミ箱という名前の猫がいて、特に今回ご紹介の『約束』では大活躍しています。
この辺りは猫らしい世界観が猫好きの心をくすぐる部分です。
しかし、この作者が上手いなあと感じさせるのは、イメージ上の猫世界だけでなく、少し人間っぽさも加えてあるところです。
アルフィーはジョージという名の、まだ子猫の育児真っ最中。
人間で言うと思春期に近い年齢になってきたのか、ジョージはアルフィーに反抗したり無視したりと、難しいお年頃になり、アルフィーはどう接したらいいのか、若干途方に暮れたりして、リアルです。
それもそのはず、作者は育児経験者(多分現在も育児中)。
実体験が作品に落とし込んであるので、猫の世界と人間の世界が繋がって、不自然さを感じずに作品世界に没頭できるようになっているんですね。
アルフィーの猫らしさに胸をときめかせながら、人間っぽさで共感も引き出すという、読者に嬉しい仕掛けが施されていて、猫好きはもちろん、リーダビリティの高い、小説好きにも楽しい作品になっています。
いかがでしたでしょうか?
通い猫アルフィーシリーズは大好きなシリーズなので、日本に一人でも多くファンが増えるといいなあ、と願っています。
帯には「10万部突破」となっていますが、日本だけで10万部突破したってことかな?
作品のもつ魅力からするともっと売れてもおかしくない! と思います。
ぜひ1作目から、長く楽しんでほしいシリーズですね。
それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!
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